書評

『ちかちゃんのはじめてだらけ』薫くみこ 作/井上洋介 絵

ちかちゃんのはじめてだらけ (シリーズ本のチカラ) 作者:薫 くみこ 日本標準 Amazon 『旅する練習』で第37回坪田譲治文学賞をいただいた。 すごくうれしいのは、自分にとって昔から馴染み深く、理念に共感できる賞だからだが、それはおいおい受賞の関連で…

『ローベルト・ヴァルザーとの散策』カール・ゼーリヒ、ルカス・グローアほか/ 新本史斉訳

ローベルト・ヴァルザーとの散策 作者:カール・ゼーリヒ 白水社 Amazon 「今日ローベルト・ヴァルザーが忘れられた作家のひとりに数えられていないのは、まずもって、カール・ゼーリヒがヴァルザーを気にかけた、という事実のおかげである」(W・G・ゼーバ…

『おジャ魔女20周年記念 おジャ魔女どれみ公式ヒストリーブック TVシリーズから映画『魔女見習いをさがして』まで』

おジャ魔女20周年記念 おジャ魔女どれみ公式ヒストリーブック TVシリーズから映画『魔女見習いをさがして』まで 発売日: 2020/11/02 メディア: 単行本 小説と出版社の関係でいただくことができた。こりゃいいやとペラペラめくってなつかしみ楽しみしているう…

『西條八十集 人食いバラ 他三編』西條八十

西條八十集 人食いバラ 他三篇 (少年少女奇想ミステリ王国1) 作者:西条八十 発売日: 2018/08/18 メディア: 単行本(ソフトカバー) 西條八十は童謡詩人として最もよく知られる。『人間の証明』の「ストウハ」とつながるあの詩も西條八十である。 その手によ…

『案内係 ほか』フェリスベルト・エルナンデス/浜田和範 訳

案内係 ほか (フィクションのエル・ドラード) 作者:エルナンデス,フェリスベルト 発売日: 2019/06/25 メディア: 単行本 最近、あんまり小説を読まないが、これは何度も読み返したし、たくさん書き写した。ピアニストから転身したウルグアイの作家の短編集で…

『ライ麦畑でつかまえて』J・D・サリンジャー/野崎孝 訳

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス) 作者:J.D.サリンジャー 発売日: 1984/05/20 メディア: 新書 あちこち出掛けて、博物館や郷土資料館があると必ず入ることにしている。高校生ぐらいからそうで、知識もまばらだったその頃に見たことなんて実際ほとんど覚…

『声と日本人』米山文明

声と日本人 作者:米山文明 発売日: 1998/02/01 メディア: オンデマンド (ペーパーバック) 何か創作したいと思って、まず人はその創作物から学ぼうとする。映画から映画を、マンガからマンガを、小説から小説を考える。そして、絵画からマンガを、演劇から映…

『海とサルデーニャ―紀行・イタリアの島』D・H・ロレンス/武藤浩史 訳

海とサルデーニャ―紀行・イタリアの島 作者:デイヴィッド・ハーバート ロレンス メディア: 単行本 D・H・ロレンスの小説は長らく読み返していないが、紀行文はよく読む。不死鳥社の全集には四つ収録されていて、それも含めて色んな訳をさがして読んだが、一…

『大江戸飼い鳥草紙 江戸のペットブーム』細川博昭

大江戸飼い鳥草紙―江戸のペットブーム (歴史文化ライブラリー) 作者:細川 博昭 メディア: 単行本 本書はその名の通り、江戸時代の鳥飼いの流行について書かれている。 そもそも江戸時代、鳥は今よりもっと身近な存在であった。森林から断続的に残されている…

『神様がサッカーを変えた』岸田光道

神様がサッカーを変えた 作者:岸田 光道 メディア: 単行本 フィクションの登場人物の名付けというのはよくわからない。 よくわからないから、付け方もその都度ちがっていて、まあでも実際に名前というものはそんな風につけられるのだから、このままよくわか…

『働く男』星野源

働く男 (文春文庫) 作者:星野 源 発売日: 2015/09/02 メディア: 文庫 書かれていること自体がとくべつ面白いというわけではないと言えば語弊があるが、星野源という人間に対する興味を倍増させるほどに文章が光を放っているわけではない。 それでも、自ら「…

『手賀沼周辺の水害-水と人とのたたかい400年-』中尾正己

今は穏やかで、ついでに言うと一時期の日本一汚いという水質も多少は改善されたが、千葉県我孫子市にある手賀沼のあたりは、四百年ほど前から利根川の氾濫による水害に悩まされてきた。 そもそも川というのは自然な水の流れに人が堤防をつくったものでは全然…

『今日を歩く』いがらしみきお

今日を歩く (IKKI COMIX) 作者:いがらし みきお 発売日: 2015/03/13 メディア: コミック いがらしみきおは、15年以上、雨の日も風の日も雪の日も、毎日、家の周囲の決まったコースを歩き続けたという。今も続くものかわからないが、2014年から2015…

『トンネル』ベルンハルト・ケラーマン/秦豊吉訳

トンネル 作者:ベルンハルト・ケラーマン 発売日: 2020/09/05 メディア: 単行本 国書刊行会でこのブログの本を出そうと動いていた時だったから、刊行のけっこう前に出ることを知ったと思う。「トンネル」のことを記事で書いたこともあったから、編集者が教え…

『ウォークス 歩くことの精神史』レベッカ・ソルニット/東辻賢治郎訳

ウォークス 歩くことの精神史 作者:レベッカ ソルニット 発売日: 2017/07/07 メディア: 単行本 歩行の歴史――あらゆる時と場所、フィールドにまたがって、歩行をしてきた人間どもの記録だが、人間みな歩ければ歩くのだから、その中で、歩くことに特別な意味を…

『五つ子 その誕生と成長の記録』山下頼充・浜上安司

五つ子―その誕生と成長の記録 (1977年) 作者:山下 頼充,浜上 安司 メディア: - 文學界2020年8月号で、磯﨑憲一郎さんと対談した。 コロナ禍、緊急事態宣言が解かれて少ししてお目にかかるという状況だったが、家から出ない間は、対談準備の本が読めて楽しか…

『二列目の人生 隠れた異才たち』池内紀

二列目の人生 隠れた異才たち (集英社文庫) 作者:池内 紀 発売日: 2008/09/19 メディア: 文庫 本書はなかなか思い出深く、油屋熊八とともに湯布院を温泉地にした中谷巳次郎の話を比喩に借りたこともある。そんな例は山ほどあるが、引用文献のように出すわけ…

『スタジアムの神と悪魔―サッカー外伝』エドゥアルド・ガレアーノ/飯島みどり 訳

スタジアムの神と悪魔―サッカー外伝 作者:エドゥアルド ガレアーノ メディア: 単行本 本書は一時期、久保建英が移動中に読んでいる本として話題になった。本来、みすず書房の本を読むフットボーラーなど存在してはならないからだ。読書家で知られた元レアル…

『現代児童文学作家対談5 那須正幹・舟崎克彦・三田村信行 』神宮輝夫

那須正幹・舟崎克彦・三田村信行 (現代児童文学作家対談) 作者:神宮 輝夫 メディア: ハードカバー この毎週日曜8時に更新するようになっている書評だかなんだかで表題になっている本は、一連の考え事が始まるきっかけになった本というだけで、読んでもなか…

『作家の仕事部屋』ジャン=ルイ・ド・ランビュール編、岩崎力 訳

作家の仕事部屋 (1979年) メディア: - 私が好きなのは、該博な知識を駆使した仕事ではありません。私は図書館が嫌いです。図書館ではほとんど本が読めないと言ってもいいほどです。重要なのは後楯となるテキストとの、直接的な、現象学的な接触なのです。私…

『松本隆対談集 KAZEMACHI CAFE』松本隆

松本隆対談集 『KAZEMACHI CAFE』 作者:松本 隆 発売日: 2005/03/19 メディア: 単行本 亡くなったから書くわけでもないが――と言っても亡くなったから読み返した以上、亡くなったから書いているのだろう。 誰が相手でも興味深い話の連続である本書には、筒美…

『佐倉牧 野馬土手は泣いている (続) 』青木更吉

佐倉牧野馬土手は泣いている (続) 作者:青木 更吉 メディア: 単行本 前に成田の辺りを歩いていたら、こぢんまりとしているが手入れの行き届いた寺があった。説法山多聞(門)院という。観音堂と小さな大師堂があり歴史も古いようだが、何より一番目立つのは…

『鷗外随筆集』千葉俊二 編

鷗外随筆集 (岩波文庫) 作者:千葉 俊二 発売日: 2015/01/22 メディア: Kindle版 昔から、これに入っている「サフラン」が好きで、時々本棚から出して読む。「これはサフランという草と私との歴史である」という文にまとまる随筆だが、歴史といっても短く、す…

『記憶よ、語れ――自伝再訪』ウラジーミル・ナボコフ、若島正 訳

記憶よ、語れ――自伝再訪 作者:ウラジーミル・ナボコフ 発売日: 2015/08/07 メディア: 単行本 自分が見るなり思い浮かべるなりした光景を文にして、それを読んだ誰かが光景として頭の中に立ち上げる。基本的にはそういうイメージの伝言ゲームに関わっているわ…

『僕の知っていたサン=テグジュペリ』レオン・ウェルト、藤本一勇訳

僕の知っていたサン=テグジュペリ 作者:レオン ウェルト 発売日: 2012/09/01 メディア: 単行本 芸能人の自殺の報が多い。本人のことは何もわからないけれど、自分と同じような情報しか持っていないはずの人々からかなり色んな言葉が出てくる。ちょっと見ただ…

『子どもに聞かせる えらい人の話』

息抜きに書評を書きためて少しずつ出している。色々済んだ時、本棚を眺めてこれはと目についたものを手に取ってちょっと読んで書いたりして、書けたりして、amazonの商品紹介でも貼り付けようとしたらもう売ってないものも多い。こうなると本代の足しになれ…

『自然な構造体―自然と技術における形と構造、そしてその発生プロセス』フライ・オットー他、岩村和夫訳

自然な構造体―自然と技術における形と構造、そしてその発生プロセス (SD選書) 作者:フライ オットー 発売日: 1986/07/01 メディア: 単行本 先日、中国の緑あふれる集合住宅というコンセプトの高級マンションで蚊が大発生し、もうろくに人が住んでいないとい…

『契れないひと』たかたけし

契れないひと(3) (ヤングマガジンコミックス) 作者:たかたけし 発売日: 2020/09/04 メディア: Kindle版 「同人誌仲間」のことばかり書いていると、作品だけを見つめた感想は難しい。 あんなウンコの漏らし方をした人間がその後、同じ職場でまともに働き続…

『いまだ、おしまいの地』こだま

いまだ、おしまいの地 作者:こだま 発売日: 2020/09/02 メディア: 単行本(ソフトカバー) こだまさんの新しい本が送られてきた。 帯で酒井若菜が「読んでも読んでも疲れない」と書いている。それが褒め言葉になるかどうかはさておき、なんとなく頭に入れな…

『サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する』梯久美子

サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する 作者:梯 久美子 発売日: 2020/04/24 メディア: 単行本 サガレンはサハリン/樺太の旧名である。 死んだら人はどうなるか。どこに行くか。というか、この前死んだ「わたくしのいもうと」のトシはどうなったのか、どこに…