2014-12-01から1ヶ月間の記事一覧

ワインディング・ノート21(手塚治虫・個性・『火の鳥』)

つげ義春の初期は白土三平、手塚治虫の影響が色濃く見られます。手塚が「個性」と呼ぶのはそれ以後の時期に決まっています。ちなみに、この対談は1983年の『ユリイカ』に掲載されていて、ちょうどつげ義春が「ねじ式」「やなぎ屋主人」なんかで評価され…

ワインディング・ノート20(手塚治虫・巖谷國士・対談)

僕は前にこう書きました。 個性とは、影響の連鎖を断線させて目をつぶった時に、まぶたの裏側に浮かび上がってくる安らかなものである。 なお意見を変えるつもりはありません。 「個性」とはそんな風につまらぬものであり、「全世界を異郷と思う者」は「個性…

ワインディング・ノート19(宮沢賢治・「最後の手紙」・手塚治虫)

宮沢賢治の最後の手紙を紹介します。ここまで見てきたように、ありえない完璧を求めて思索と創作を続けた宮沢賢治が、その人生と人間に、まったく悲しい自己評価を下した、死の十日ほど前の手紙です。ここまで読んできた義理。貴方様におかれましては、一言…

ワインディング・ノート18(宮沢賢治・『雨ニモ負ケズ』・完璧)

さて、水を飲んだら少し落ち着きました。記憶が確かならば、福満しげゆきとか手塚治虫の話をしていたはずです。 マンガの土壌の話から、宮沢賢治に流れたところですが、ご安心を。きっと手塚治虫まで戻るような気がしています。今、進むべき方向がジョバンニ…

ワインディング・ノート17(宮沢賢治・『銀河鉄道の夜』・冒頭)

そして、僕はここで、恥ずかしながら、あの冒頭の授業のシーンに心ひかれるわけがわかったような気がしたのでした。宮沢賢治の論評は膨大にありますし、こんなことはもう誰かがいっているかもしれませんし、僕はそれを読んだことすらあるような気がしていま…

ワインディング・ノート16(宮沢賢治・『銀河鉄道の夜』・科学)

となると、遠慮がちな賢治の考えを推測すると、この世を幸福にするのは「宇宙意志」であり「科学」によってできていないということになります。 だとしたら、大学士はいったい何をしているのでしょうか。こう言ってもいいでしょう、賢治は、どうして「宇宙意…

ワインディング・ノート15(宮沢賢治・『銀河鉄道の夜』・『農民芸術概論』)

遠慮なくつるはしを振るう彼らは、風か水か、がらんとした空かに見えていると先ほど書きましたが、これは、少々の飛躍を承知で言えば、「故郷を甘美に思う者」の態度といえるのではないでしょうか。 彼らはそこにかつての生者たちがいたことを認識しません。…

ワインディング・ノート14(手塚治虫・宮沢賢治・『銀河鉄道の夜』)

マンガをスキャンできる環境にないため、マンガではなく手塚治虫の書いた文章から察していきましょう。彼は随所で作品の影響を嬉々として語っています。例えば、以下は、「忘れられない本」というエッセイです。 ぼくの大河もの作品のストーリー・テリング、…

ワインディング・ノート13(作家倫理・福満しげゆき・手塚治虫)

僕が当時漠として抱えていた「不快」は、この一点に存していたのかもしれません。 つまり、なぜこんな風に書くことしかできないのか。それが認められてしまうのか。 おそらく僕をいちばん苦しめていたのは、先生に引用と模倣と隠蔽だらけの文章を見抜く力が…

ワインディング・ノート12(スタージョン・先生の手紙・パクり)

もしかしたら、どこを開いても引用まみれのこの文章を読んでいる人は、こんなことを思うかも知れない。「こいつは自分の頭で考えられないのだろうか? どうして全て他人の言葉を借りて済まそうとするのだろうか?」 でも、果たしてこれはそういうことなので…

ワインディング・ノート11(サリンジャー・アップダイク・カフカ)

サリンジャー自身もまた、理想のような完全な孤独に暮らしたのではなかった。以下の例でも明らかになるので書かないが、とにかく、そういった作家と読者、人間同士の異様な非対称の関係は、多くのようなエピソードを現実にもたらすことになった。サリンジャ…

ワインディング・ノート10(サリンジャー・「ゾーイー」・太っちょのオバサマ)

「太っちょのオバサマ」をご存知だろうか。ご存知であれば、ここまでちょくちょく思い出し、いつ言及するものか、ずっとしないんじゃないか、しないならコイツは救いようもない無能だと嘆いていたはずだと思う。 「太っちょのオバサマ」とは「シーモア―序章―…

ワインディング・ノート9(サリンジャー・安部公房・作家と読者)

接触不可能な沈黙する読者。当然、これは、安部公房が以下のように語ることとかなり似通った意味として現れるように思われる。 よく作家は、つまり自分自身のために書くと言ったり、いや、百万の読者のために書くとか、まあ、いろいろ言うが、これは全部嘘で…

ワインディング・ノート8(サリンジャー・「シーモア―序章―」・読者)

さて、ここで作家と読者というものについて新しく考えを巡らせることもできそうだ。各自適宜、「マンガ家」とか広く「作者」とか自分の都合の良さそうな言葉に変換してもらっても構わない。 作家と読者の問題は、以前あげた村上春樹が言うこともそうだが、各…

ワインディング・ノート7(スタインベック・旅役者・ギールグッド)

あまりにも無礼だった自分。それで平気でいたのは、なぜかと考えないでもない。 自分の中に「完璧な人間」たちがとぐろを巻いているので……という仮説はしばしば頭をよぎってきた。 例えば、誰かが人を褒めているところを見るにつけ、求めてもないのに、スタ…

ワインディング・ノート6(自分・自分・自分)

中学以来、自分という人間は、とにかく他人と関わって自分について何か言われることが、もっと言えばそこに存在することがとてもイヤだったというのは書いた。国語は非常によくできた。目立った行動は取りたくないので、校外模試や学校のテストなんかでは、…

ワインディング・ノート5(サリンジャー・田中優子先生・感傷)

ノートを眺めていると、太宰が証明するように、なることもできない「完璧な人間」の正体を、自分もまた追い求めているように思える。そうなりたいと思っているわけでもないのに不思議な感じだが、そうするより仕方がないという気がずっとあるのだ。だから、…

ワインディング・ノート4(太宰治・村上春樹・うなぎ)

さて、「故郷を甘美に思う者」「あらゆる場所を故郷と感じられる者」「全世界を異郷と思う者」の三すくみは、村上春樹の「うなぎ」を連想させもするという話。 村上:僕はいつも、小説というのは三者協議じゃなくちゃいけないと言うんですよ。柴田:三者協議…

ワインディング・ノート3(太宰治・「徒党について」・三すくみ)

人間関係を、贈答、ギブ&テイク、義理に雁字搦めとなった気詰まりなものとしてとらえている太宰がいる、という話だった。そのくせ、という話だった。 兄妹、五人あって、みんなロマンスが好きだった。長男は二十九歳。法学士である。ひとに接するとき、少し…

ワインディング・ノート2(太宰治・『津軽』・贈与論)

「ね、なぜ旅に出るの?」「苦しいからさ。」「あなたの(苦しい)は、おきまりで、ちつとも信用できません。」「正岡子規三十六、尾崎紅葉三十七、斎藤緑雨三十八、国木田独歩三十八、長塚節三十七、芥川龍之介三十六、嘉村礒多三十七。」「それは、何の事…

ワインディング・ノート1(フーゴー・デカルト・共同体)

もう10年近く書きためたノートがある。 読んだ本からの引き写しを並べたノートで、最初の2冊はなくしたが、大学に入って書き始めたものが3冊残って、今は6冊目になっている。 100ページのキャンパスノートにびっしり書いてあるので、もうどこに何が…

ホットドッグ・ドラゴン

ホットドッグしか食べないホットドッグドラゴンをひろったアキヨシのおこづかいが、今日、「妖怪ウォッチ真打」の購入のあおりを喰らい、底をついた。 このままでは、飢エ死ニだ! だからアキヨシはドトールまでホットドッグ・ドラゴンを駆った。 ホットドッ…

冬のザボエラ

「熱帯魚見せて」「マンガ見せて」の乱れうちによって、サークルの飲み会おわりで芋川さんの一人暮らしの家に招かれた俺。熱帯魚はみんな死んでたし、たくさん持ってると言っていたマンガは俺の持ってる1000分の1しかなかった。というか『ダイの大冒険…

んこみての 4

ホテルに帰ってすぐでした。すぐにわたしの班は全員、磯貝先生の部屋に呼び出されました。磯貝先生のテエブルの上には、灰皿に何本も吸い殻がたまっていておりました。先生はそれを奥の方へずらしながら、ほとほと困りきった顔で、アンドリュウがアゴを骨折…