2007-06-01から1ヶ月間の記事一覧

ギターコンサート

俺のコンサートは今日、お日様が一番高いところから街を見下ろし、時間差で気温が一番上がる午後二時開演だ。 俺のアコ−スティックギターが控え室の蛍光灯をうけて不気味に光っている。俺が上の方をつかんで移動する時に机の角や壁に当たるたびゴインゴイー…

合気道

合気道の道場の前をもう二時間近くうろついている島田島子、ブックオフの値段のシールがうまくはがせない16歳の女の子だ。 「おいおい、あの娘っ子、もう二時間もいるじゃないか」 「そんなこと言ってポール、もしくはオマエのガールフレンドなんじゃない…

竜王戦キックオフ

二人の指し合いは虚々実々、抜き差しならぬきわまで来ていた。トモキ竜王の持ち時間が着実に、一秒一秒と減っていく。 トモキ竜王はため息をつき、くるりと盤に背を向けた。そしておもむろに膝を立てた。 誰もが、帰る、と思った。トモキ帰る、と思った。 と…

Mさんは相手にせず、ただ黙って笑っている。勝利者の微笑である。けれども私は本心は、そんなに口惜しくもなかったのである。いい文章を読んで、ほっとしていたのである。アラを拾って凱歌などを表するよりは、どんなにいい気持のものかわからない。ウソじ…

マッチョ対メカマッチョ

メカマッチョが東京湾に現れたその日、マッチョはバリ島でつかの間のバカンスを楽しんでいた。 「博士、テレビで見ました。大丈夫ですか」 「マッチョくん、東京はほぼ壊滅状態。もはや動いている線路は埼京線だけだ」 「なんですって。すぐ向かいます」 「…

シュバイツアー潤之介のファッション革命

肩で風切るオシャレボーイが服に比べたら安いなぁと思いながら購入するファッション雑誌「男のノンノ」。その専属モデル、シュバイツアー潤之介が今春に向けた、というより全人類の未来に向けた革新的なファッションをぶちあげたのが、そう、早くも伝説にな…

ドトールでハッ!

ドトールの四人がけテーブルの上で顔をつき合わせるようにして身を乗り出している彼らは、別にその行動それ自体がしたいわけではない。ひそひそ話をしているのだ。 「誰にも見つからなかっただろうな」と中日ドラゴンズのベースボールキャップをかぶっている…

かわいい猫

あんまりかわいいもんだから、おばあちゃんの飼っている猫はみんなからかわいがられた。おばあちゃんが営むタバコ屋を訪れる人や学校帰りの学生が、店先にいる猫をなでたり、真っ白いお腹をくすぐってあげたりした。 おばあちゃんがお金を取り始めたのは梅雨…

ぼくたちの将来

バイタルエリアというのは実際どこのことを言うのか、幼稚園児には知る術も無かったが、どうやら自分たちのバイタルエリアはこの幼稚園であるらしい、ということはわかっていた。そして、バイタルエリアでは頑張った方がいい、ということも小耳に挟んで理解…

教頭でオトす

「まず、この映像を見てください教頭先生」 ある生徒から手紙で「放課後、理科準備室に来るように」呼び出された教頭は、それから現れた覆面をした五人の小学生にこれでもか言うほどびびっていたので、言われるままにテレビを見た。 「校長!」 そこにはバス…

「そう、結婚したし、今もしてるよ」つまらない話を始めたものだと後悔する。大きな泡が、ひどく大きくなって、ウサギの心臓におしよせる。子供のころ土曜の午後遅くどこからか帰ってきたときに、突然、これが――木とか舗道とかが――人生なのだ、それが現実に…

帰ってきたオシャレ・ザ・沖本 〜友達をよべる家〜

いつもなら麦茶のパックを入れていたビンに今回はダージリンティーのパックを入れたそれだけで、沖本の家はさらに二倍ほどオシャレになっていた。冷蔵庫に麦茶の代わりにアイスティーがおさまっているだけで、家全体がこんなにもオシャレになるなんて魔法み…

サラリーマン出陣

汗だくのシャツに彩られたJR松戸駅の3番線にいる誰もが、日本の通勤システムに疑問を覚えていた。電車はなかなかこないし、来ても「来たと思ったらこれかよ」というパンパンさ。「俺たちは寿司じゃねえ!」と寝る前に叫ぶのがサラリーマン達の悲しい日課…

カエル師匠2

「ぼっちゃん、お肌はしっとり、それが何よりだっせ」 そんな優しいじいやの声が聞こえたのは、乾燥注意予報が天気予報とセットでお送りされる冬のある日だった。 それから僕の人生は、まさに、お肌をしっとりさせるためだけの全国ツアーとなったのです。 ど…

ネタバレあるぞ!『大日本人』を見に行った日

ネタバレあるから観てない人は読まないでね! ぼくは今日、松本人志の第一回監督作品、『大日本人』を観てきました。 ぼくは絶対に目が行かない頑張ったスタッフさん達の名前の羅列が出終わって、「吉本興業」と大きく映し出され、明るくなった時、 「松っつ…

カスえもんごむ太のなんかこわいよ最終回

「じゃあ、じゃあカスえもんはもう動けないってことかよ」 「そうなんだ。カスえもんに搭載されているバッテリーの製造が終わってたんだ。そして、バッテリーはもうきれかかってる。声もかすれてきてる」 ごむごむ太の声は沈んでいたが、それは無理も無いこ…

王様の価値観

ある国に、それはそれは気難しい王様がおりました。王様はある日、朝から色々といやなことが重なったので、昼ごろに叫びました。 「価値観のあわない召使いは罰ゲームだ!」 さあ大変です。王様のお世話をする三十人はくだらないといわれる召使い達はあせり…

笑かしてくれミツル

1年S組のミツルの話は、「まーおもしろい、まーおもしろい」と評判である。 理知的さでは高校でも群を抜くという国語教師でさえ、ミツルがひとたび口を開けば、体育教師と全然変わらないように笑うという。 クラス替えでは、ミツルと同じクラスになること…

オシャレ・ザ・沖本

沖本のオシャレセンスは、パリでも、いやパリだからこそ通用するに違いない。だから俺たちは大学を休んで、成田空港まで見送りに駆けつけた。 「頑張れよ、沖本。お前のオシャレ、パリっ子どもに見せつけてやんな!」 「そうよ、沖本君。わざと左右違う靴を…

カエル師匠1

「空に、お空に浮かんで溶けなはれ、ぼっちゃん」 そんなかわいがってもらっていたけど他界してしまった執事らしき人の声が天から聞こえたのは六月の曇天のある日でした。 それから僕の人生は、ただ、空に浮かんで溶けるまでの期限になったのです。 どうすれ…

雷様いい汗流す

雷様は雲の縁にしゃがむと、しばらく下界を眺め、ため息を一つつきました。そしてから、四つ、立て続けにつきました。 「しょぼくれてんなあ世の中はよ!」 雷様はもじゃもじゃの髪の毛を自らむしり取りながら、下界に向かって投げつけました。 「おもしれぇ…

キャンプの晩飯

「例えば、ニホンザルが5匹でやることを、チンパンジーなら1匹でやることが出来る。ニホンザルがカレーをみんなでわいわい作るためには最低でも25匹必要だが、チンパンジーは5匹で作ることが出来てしかも後片付けが楽なように調理中から小まめに洗い物…

はみ出せ!

「馬鹿かお前らは! はみ出せ!」 ここ、新田お絵描き塾では、はみ出さないことを許していない。 「俺がデモンストレーションをやる! 見とけ!」 俺は服を脱ぎ、12色セットの中では比較的余りやすいと言われる、緑があるから別にいらないと言われるビリジ…

ベルリンの壁が崩壊したとき、ぼくたちはテレビの映像にくぎづけになった。そのときは、テレビのあの平面的で、表面的な画像が、まったく時代にふさわしいものに見えたものだ。いままでごまかしたり、隠したりされてきた、多くの情報が公開されるようになっ…

複眼竜マサトシ

複眼竜マサトシは「それはこの俺、複眼竜マサトシが食べる」と凄みをきかせて言った。 その、ふざけたガキどもを前にしてキレるちょっと前の体育教師のような鬼気迫った感じに、モガミ君は慌てて食べようとしていたものを差し出したのだった。 複眼竜マサト…