2015-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ワインディング・ノート32(サリンジャー/キルケゴール/『死に至る病』)

もう少し「星」を頼りに話を進めましょう。「シーモア―序章―」で、語られ役であるシーモアは「小説家」である弟のバディに向けてこう批評を綴ります。 なつかしきバディよ、今夜は陳腐なこと以外、何を言うのも恐ろしい気がする。結果はどうあれ、どうかおま…

ワインディング・ノート31(村上春樹/『驚きの皮膚』/cero)

とくに年若い時期には、一冊でも多くの本を手に取る必要があります。優れた小説も、それほど優れていない小説も、あるいはろくでもない小説だって(ぜんぜん)かまいません、とにかくどしどし片端から読んでいくこと。少しでも多くの物語に身体を通過させて…

ワインディング・ノート30(村上春樹/cero/細野晴臣)

この、「終わりの来ない旅」を続けるならば、永遠の入れ子構造や絶え間ない不信や矛盾に陥らざるを得ないという状況は、彼らのバイオグラフィーとも重なってくると思うのですが、思うというかそのようにインタビューで語られていたのですが、語られていたと…

石坂浩二さんがくれたドラゴン

ドラゴンはとてもかしこい生き物だ。 夕暮れ時、カーテンを閉めるついでに窓を開けてみると、春の風はなおも冷たい。明日は雪が降るらしい。 ドラゴンは、やはり大きな背中をこちらに向けているばかりだった。汚れた猫の額ほどのベランダで、エアコンの室外…

ワインディング・ノート29(世阿弥/サザンオールスターズ/cero)

で、実にそんな感じで作品に自己を投影しないようにやってきたのですが、この一年間に、自分をバリバリに投影して読んでしまい、この通りに生きようと思ってしまった本が二冊だけあります。 それが、世阿弥の『風姿花伝』と、村上春樹の『職業としての小説家…

ワインディング・ノート28(村上春樹/『職業としての小説家』/フィリップ・ロス)

僕は、村上春樹の熱心な読者ではありません、と書いたところで、そのくせほとんどの本を読んだことがあるし、たくさんの啓示を当たり前のように受けてきていることに気づきました。 それでも、 熱心な読者ではないと何の逡巡もなく余計なことに口をすべらせ…