創作
ウーウーけたたましいサイレンが鳴り、そっから!?という位置からパトカーが飛び出してきた。 「やべえ。あいつ、とっつかまるぜ!」 タバコを買いに来ていた地元民の67歳は、片目をつぶって快哉を叫んだ。 ネズミ取りとは、国道の死角(ブラック・ボック…
家族で集まるなんて、ずいぶん久しぶりだ。家族っていってもたったの二人ぽっちだけど、お母さんが久しぶりに帰ってきたのだ。 お母さんが腕によりをかけた、ぼくがいちばん好きな麻婆茄子の夕食を食べ終わると、ぼくたちは家にあるものだけで自衛隊の戦車に…
秘密基地の前に立ったとき、ザリガニがたくさん集まった時に初めて出るにおいがしたので、腕白坊主たちはさっき雑木林の奥でしこたまハチにさされまくった顔を見合わせた。 普段から一緒にいるのに自己紹介が必要なほどはれあがった顔では、誰が誰やら判別で…
最近じゃヤクザモンの世界も大人しいもんだ。そう思ってるそこの君! 間違ってるよ。話が始まる前に、それだけは言っておこう。 ヤクザ坊主の俺は、貧乏大学生ここにありという服装(毛玉パーカー)で、かけうどんをすすっていた。誰がどう見ても立ち食いそ…
ムガール帝国を統治したアクバル大帝が9000頭のチーターを飼育して狩りに用いたという伝説を小耳に挟んで、非常にかっこいいと思った。 いろんなところでスピードというのは大事にされてる。先人たちが見出して伝えられてきたみんなの宝物だ。野球マンガ…
ヨシユキは明日の英語のテストに出てくる単語を、文房具屋で絶対売っている単語カードで覚えていた。「僕の字はきたない、そしてバランスもわるい」という男子学生の悲しい気持ちが夜の鳩胸にこだまする。「右のほうがすごくあまっている」 ヨシユキは高校生…
人ん家の庭を物色しているのは、悪名高い毒蛇塚兄弟。通っている高校では、兄がダブっている間に弟が上級生になったり、弟がダブっている隙にまた兄が抜かしたりとデッドヒートを繰り広げ、そろって三年生になり迎えた進路面談では、先生をなめくさった態度…
20XX年、季節はずれの雪が降った三月のある日、巨人の五番、万原選手が地元の小学校を訪れた。去年は不本意なシーズンを送っただけに、子供たちからパワーをもらいたいところだ。 体育館でスピーチをしたあと、六年生に「夢をあきらめるな」的な授業をし…
ぼくはきのう、おかあさんとフリーマーケットというのにいきました。そうしたら、ふしぎなおみせやさんがありました。そのおみせのどこがふしぎかと言うと、ほかのおみせはどこもシートのうえにすきまなくたくさんしなものをならべてるのに、そのおみせには…
「ベイビー ヨーラ リッチマン ベイビー ヨーラ リッチマン ベイビー ヨーラ リッチマン トゥウ」 中国でかっこいいホームレスが有名になる三か月前から、紀藤さんは駅前で歌っていたよ。錆びたギターをかき鳴らして、ボサボサに伸びて固まった髪の毛を口に…
もともとは聖堂だったという広い室内のど真ん中、ぼくは十メートルもあるロープの先端に逆さ吊りにされている。そして、ぼくを中心にして、おばけが二十人の大行列を作っていた。 ぼくの手元には一台のVAIOがあって、逆さ吊りの体勢から操作する。ブライ…
今日の体育は願いを叶える授業だということで、みんなずっと楽しみにしていた。 グラウンドを二周ほどして、準備体操。体育係の小宮祐介も、こころなしか早いペースで屈伸し、一番めんどうな体をまわす体操を先生にばれないように省略した。 「先生、体操終…
昼下がりの草原で、獰猛なジャッカルたちがぼくを取り囲んでいた。バウワウと洋鳴きで、今にもぼくを食らわんとせんばかりだ。 ぼくは、膝のところで蛇腹になっているずり下げたジーンズがすごく束感のある血管をめちゃ圧迫しているのを感じながら、体をひね…
俺の名前は桑田。この春、宮城県の仙台からちょっと行ったすげえきたならしい町の芸大に入った。もともとシャレな横浜育ち。男印はランドマーク。そう、俺がシティーボーイの桑田だ。桑田真澄の桑田だ。 俺がこの学校に入って一番最初にびっくりしたことは、…
佐野さんのスタイルは、ドミノの先にしゃがみこんで、左手にドミノをいくつか持ち、右手で一つ取っては置いていくというものだ。そして満足そうにしばらく眺めてから、また手を動かす。 おっとりした性格よろしく動作ものんびりした佐野さんの貢献は、全体か…
スターダムを駆け上がりたいですかという質問に98%が「はい」と回答したアメリカ合衆国では、寄付は億ドル単位っしょが合言葉。 ホワイトタイガーとそれを操る人をペアで買おうか、それともプライベートジェットにぴあみたいな自分の似顔絵を描こうか、目…
依頼主の、ナンシー関のような女社長はまだ疑っていた。20Pにわたる多色刷りパンフレットを読み終えてもなお、こう言うのだった。 「笑い殺すなんてことが、ほんとに可能なの?」 「殺せますとも、ナンシー。不肖マーダー・キートン山田のお笑い殺人術は…
ここは、首相官邸で一番暖房の空気が集まってくる首相の部屋。「ゆ」と「き」と「お」の文字プレートを全部違う色で買ってきて、ドアにアーチ状に貼り付けている。 アポなしでやってきた天才・学歴詐称・世直しストの瀬戸内海大説教丸(せとないかいだいせっ…
未来の宇宙からきたミダラモンは、ちっぽけな子供部屋で一人床に座り、真剣な表情でモニターを見つめ、薄暗い光を金属的なボディーで照り返していた。 「アキラくん、アキラくん、どんな調子だい?」 『大丈夫だよ、ミダラモン』 「その調子で頼むよ」 『順…
タイマン勝負のだんとつ人気ナンバーワンは、ムッシュかねやつ先輩と相場が決まっている。 かねやつ先輩のファイトスタイルの特徴は、一発殴られるごとにそのへんに小銭を撒き散らすこと。驚くべきは、気絶するまでは何発殴られようとも無限に小銭が飛び出し…
見つかったアジトに物的証拠はなし。ただし生活感はあった。そこで、犯人像を探るため、プロファイラーがやってきた。橋の下から、バイクを飛ばしてやってきた。 「え? ホームレスなの?」 警部はそのへんの下っ端警官に問いかけた。ホームレスみたいな恰好…
放課後、六年生の小島くんは転入生の唐沢くんを呼び出した。 「唐沢くん、急に呼び出してごめんよ」 「ぼくは忙しいんだぜ。5時から塾があるし、7時からはネプリーグを見るんだ。早く済ましてもらわないと」 唐沢くんは小学生にしては長めにカットされた髪…
博士 「やあ、ユキオくん。性病はこれ全て自業自得。私は決して同情はしないよ」 ユキオ 「同情なんかいらないよ。その分ぼくはセックスを楽しんだ」 博士 「セックスとか言うんじゃない!」 ユキオ 「(え?)」 博士(不機嫌そうに) 「今日の勉強を始める…
六郎はついてない。そしてダメだった。 今、六郎は5年2組の真ん中のところに席を構え、食い入るように前方を見つめている。学級委員長と副学級委員長による開票・集計作業がまさに行われているところなのだ。 最近、六郎はやなことがいっぱいあった。気ま…
昨日の夜どこかのテレビ局でやっていた二時間ドラマ「いっこく堂ドラマスペシャル 殺意が遅れて聞こえるから助けられない」の感想を書きたいと思います。 今更いっこく堂なんて、はっ、と斜に構えた態度で観賞を始めたぼくですが、それどころかオープニング…
ヨウジロウは集中力のない問題児だ。せっかくの日曜だから、近所の、近所じゃない人も遊びに来る大きな大きな公園にやってきた。 他の子供たちがアスレチックに直行するところを、広々した野原みたいなところで、そのかなり真ん真ん中に陣取って、四つん這い…
博士 「ユキオくん、こんにちは。性病の調子はどうかな? 今日は治安の悪化について考えてみよう」 ユキオ 「ありがとう博士。治療は順調に進んでいるよ。膿も減ってきた」 博士(不愉快そうな顔をしてから) 「ところでユキオくんは、『割れ窓理論』って知…
深夜2時をまわり、群馬の小五ヒロキは一階に降りてきた。牛乳でも飲みに来たのだろうか。どうも違うようだ。ヒロキの目は好奇心モードに赤く光り、なにかよからぬことを考えているのが丸わかりだ。 抜き足差し足の忍者フットで両親の寝室の前を通る。自分で…
本来はもっと寒いところにいるはずだろ!? というペンギンが手に手をとって横一列になり、関東沿岸部を取り巻くようにして泳いできて、やがて一斉に東京湾に突っ込んでくるところを想像したら映画化したくなった。 ここで東京湾についてちょろっと説明して…
一人目の少年は、猿のような動きで蔦にぶら下がって揺れ、飛び降りた着地の瞬間に新メンバーに声をかけた。 「ぼくの名前は、そばかすがあるからソバカスっていうんだ。よろしく」 その細長い顔はそばかすだらけで、名前がそばかすなのもうなずける話だ。新…