そばかす

 一人目の少年は、猿のような動きで蔦にぶら下がって揺れ、飛び降りた着地の瞬間に新メンバーに声をかけた。
「ぼくの名前は、そばかすがあるからソバカスっていうんだ。よろしく」
 その細長い顔はそばかすだらけで、名前がそばかすなのもうなずける話だ。新メンバーはにこにこ笑って答えた。
「よろしく。そばかすが多いからソバカスなんてうまいこと言うもんだね」
「お次はぼく。食べるのがだいすきだから大食いっていうんだよ。きみも大食いってよんでいいよ」
 味のなさそうなパンを次々に頬張りながら片手をあげた少年はその割に体はそれほど大きくなく、その小さな体のどこにそんなたくさんの食べ物が入るんだという感じにソバカスだらけだった。
「よろしく。そばかす多いね」
「食べかすじゃないよ。そばかすだよ」
 大食いがうまい冗談を言ったので、新メンバーは、うまいこと言うもんだ、と聞こえるか聞こえないかの小声で言った。
「え? なに?」
 いっしゅんへんな空気になった。
「最後はぼくだな。ぼくの名前は笛ピーピー。笛を吹くのは一日中やってたって飽きないね。そばかすで悩んでるよ」
 ポケットから飛び出して落ちそうになった笛には目もくれず、その少年は白く半透明な軟膏をほほに向かって執拗に塗っていた。
「よろしく。そばかすって薬でなおるんだね」
「ちゃんと皮膚科に行って処方されたものを使えばいいんだ。自分に合わない薬をぬり続けていると肌がおかしいことになってしまうぞ。とにかく、君の名前を決めなくちゃなー」
「前に所属していた探検隊では、なんてよばれていたんだい」
「そばかす」
 言いにくそうもなく発表された新メンバーの愛称に、三人は「え、えぇ〜〜〜!?」という顔を見合わせた。
「う〜ん。そばかすだらけの顔を見た時からまさかとは思っていたけど」
「まいっちゃったな。心の中ではすでにソバカスと呼んでいたけど、じっさいそうなってみると……」
「なにか特技はある? そばかす以外で」
「特にない」
 新メンバーが突っ立って言うので、みんな腕を組んでしばらくうんうん考えた。
 口を開いたのは笛ピーピーだった。
「ところでその忌まわしいそばかすを治す方法だけれど、レーザー手術なんかも有効だよ。お金はかかるけどね。だから、いつか探検して財宝を見つけたら、ぼくはそれ売ったお金でレーザー手術するんだ。そのために探検隊にはいっているんだよ」
「レーザーか、いいこときいた」
「ひらめいた! じゃあ、レーザーでソバカスのそばかすをなおせば、きみがソバカスになれるじゃないか」
「ほんとうだ。ぼくがソバカスじゃなくなったら、きみがソバカスだ。そのときぼくのことは怪盗ジバゴってよんでもらおう」
 ソバカスはもう手術が終わったような顔でうれしそうに飛び上った。その様子を三人は指をくわえてながめた。
「でも、そんときにはぼくだってレーザー手術を受けたい。そして怪盗ジバゴとよばれたい」
 新メンバーの主張に、場は騒然となった。
「そしたらまた名前が同じになってしまうじゃないか。かんがえなおせ。ぼくは関係ないからレーザーをあててもらうし、ドクター・ロバートとよんでもらう気でいるけど」と大食い。
「だいたい、手術の順番は探検隊に入ったじゅんばんになるだろ。君は最後で、ソバカスが一番だよ。だから、レーザーをあててもらうじゅんばんは、ソバカス、大食い、ぼく、そいで君。ってことは、ソバカスが手術した時点で、ソバカスは怪盗ジバゴになって、きみがソバカスになって、ぼくはレーザー仮面。これでいっけんらくちゃくなんだよ。かんがえなおせ」
「怪盗ジバゴからも忠告させてもらう。かんがえなおすんだ」
 新メンバーは泣いてしまったが、旧メンバーはゆずらなかった。掟を守れないのならば、遠慮なくやめてもらう。