「いっこく堂ドラマスペシャル 殺意が遅れて聞こえるから助けられない」

 昨日の夜どこかのテレビ局でやっていた二時間ドラマ「いっこく堂ドラマスペシャル 殺意が遅れて聞こえるから助けられない」の感想を書きたいと思います。
 今更いっこく堂なんて、はっ、と斜に構えた態度で観賞を始めたぼくですが、それどころかオープニングから度肝を抜かれてしまいました。
 まさしく「いっこく堂ドラマスペシャル」と赤いタイトルが映し出された直後でした。突然いっこく堂の顔がアップになり、「はいっ」と小声でつぶやいたあと、いきなり腹話術で軽快なテンポのテーマ曲を歌いだしたのです。物凄い腹話術です。「いっこく堂が歌っています」というテロップが、歌詞とは別に出されていました。
 さらに、いっこく堂は次々に切り替わるシーンで走ったり柵を飛び越えたり銃を構えたりしながら腹話術で歌っていました。神業です。人形は持ってたり持ってなかったりしました。ジジイの小人みたいな人形が焼却炉に放り込まれて、焼却炉ごと爆発していました(劇中にそんなシーンはなかった)。
 何よりぼくがやられた、こいつはまいったと思ったのは、口を閉じて歌っているので、結局は普通のドラマのオープニングと同じだということです。脳がゆらいでいました。
 これだけだと最近のまとめサイト世代には単なるウケ狙いと取られがちですが、ドラマが始まると、このオープニングの演出意図が明らかになります。
 いっこく堂演じるいっこく刑事(でか)はドラマが始まった途端にまた顔だけのアップになり、巷を騒がせている連続殺人犯がマスコミに送りつけてくる手紙に書いてあった悲しい生い立ちを腹話術で話し始めます。喋っているようには見えないのでナレーションみたいでした。
 さあ、ここでもし、忘れっぽい視聴者がオープニングでいっこく堂の腹話術のレベルを再確認させられていなかったらどうでしょうか。なんか久しぶりに目にした「いっこく腹話術」への驚き(久しぶりに見るとやっぱすげーなという驚き)で会話の内容に上の空になり、犯人が小さい頃からとにかくおじいちゃんに育てられていたという大事な伏線を聞き逃してしまうでしょう。そうすれば、最後いっこく刑事がおじいちゃんを人形に見立てて登場し、腹話術で、さらによく2人で聞いていたという桑田佳祐のモノマネで、犯人を説得する名シーンで、「誰かな、いっこく堂すごいな」となってしまったに違いありません。
 一刻も早く刑事を辞めたいいっこく刑事(見ている全員が「そのいっこくかよ!」と叫んだはず)を含めたそれぞれの思惑が交錯する複雑なストーリーなので、それは実際にDVDやFC2で見ていただくとして、とりいそぎ、ぼくが心に残ったシーンの数々を時系列であげていきたいと思います。


・腹話術で上司の悪口を言うシーン

・自宅で、人形にクリームを塗る場面

いっこく堂武蔵境駅で降りた直後、置き忘れた人形が一人で電車に乗っているカット。

・「送ってください」「取りに来ていただかないと困ります」「めんどくさいので送ってください」の電話問答のあとに飛び出した、「終点まで運んだのはあなたたちJR」といういっこく刑事の理屈。

・電話相手の母親に腹話術で、上司とJRの悪口を同時に言うシーン

・自宅で、人形に何かクリームと月1の油を塗るシーン

・屋上での格闘シーンで、空手二段の犯人が「5秒で片づけてやる」と指を出した瞬間、いっこく刑事がチョップ1発でそのうち4本の指をへし折り、もう一方の手で持った鳥の人形が「あれー!? もうあと1秒!?」とすっとんきょうな声をあげるシーン。

・手負いの犯人に銃をつきつけられ絶体絶命のいっこく堂。その時、「銃を捨てろ!」という声が地下駐車場に響き渡る。あたりを見回そうとする犯人を制するように一発の銃声。犯人は銃を捨てるが、どういうわけか誰も出てこない。おかしいと思った次の瞬間、「正解は、いっこく堂!」と叫んで人形を犯人の頭にかぶせ、ジャンプ一番、そこに回し蹴りを決めるいっこく刑事。

・いっこく刑事の背中をバックに流れる、ハードボイルド・エンディング腹話術・テーマ曲

  腹話術が得意な刑事は
  寒そうにふるえてた
 
  命知らずに 冷たく燃える魂と
  鈍く光るニューナンブ
  一つや二つの影を引きずり
  人形片手に 今日も悪い奴を見た

  「俺はもうダメだ」
  「コートを脱ぎな」
  「どうせ死ぬんだ。放って早く行ってくれ」
  「口がひらきゃ十分さ」

  腹話術が得意な刑事は
  海外へ進出した