創作

宇宙船クーデター号 ~絶妙な間とタイミングの天文学的情報量について~

旅するケンタとサクラの目の前に現れた謎の少年! 何を聞いても「それ、うめぇのか?」と繰り返すばかりの野生児と粘り強くコミュニケーションを図ろうとする二人にも、さすがに疲れの色が見え始めるのだった!「これでは埒が明かないな……」「まさか、こんな…

チー牛マスクの最期

その日のチー牛マスクはなんだか様子がおかしかった。もちろんそれが、巷で話題のネットスラングのせいなことぐらい、ぼくにはわかっていた。「今日も助かったよ、いつもありがとう、チー牛マスク」「お安い御用さ、西田くん」 そのお礼にすき家をおごるのが…

『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』新発売!

ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ|国書刊行会 『最高の任務』で第162回芥川賞候補となった現代文学の新星、乗代雄介がデビュー前から15年以上にわたって書き継いできたブログを著者自選・全面改稿のうえ書籍化。 総数約600編に及ぶ掌編創作群より67編…

十一月の朗読

教室の南側は全て窓ガラスがはめこまれているというのに、その日の天気を覚えられていない。学活の時間を二時間とって予告されたお楽しみ会の、二週間前から準備されたお楽しみは、十名の出し物からなっていた。 その中でも、ノブヒコが楽しみにしていた唯一…

石坂浩二さんがくれたドラゴン

ドラゴンはとてもかしこい生き物だ。 夕暮れ時、カーテンを閉めるついでに窓を開けてみると、春の風はなおも冷たい。明日は雪が降るらしい。 ドラゴンは、やはり大きな背中をこちらに向けているばかりだった。汚れた猫の額ほどのベランダで、エアコンの室外…

いもとアネモネ

私と妹に別々の部屋はない。妹が小学校1年生に、私が3年生になった頃から一つしかない子供部屋を二人で使うようになった。 勉強机は、ちびまる子ちゃんの部屋と同じように置かれていた。はじめの頃は、ほとんど机に座ることもなく、部屋の真ん中で二人、い…

あきらめの悪い人

父はあきらめが悪かった。あきらめたら何かが終わってしまうと思っているみたいに、いつも厳しい顔を浮かべていた。 家族3人で鍋をかこもうという時もそうだ。 ガスコンロのガスが切れているのに、父は何度も何度もスイッチをひねり続けた。火元をのぞきこ…

もしもローソン店員のステータスがすごく高い世の中だったら

背水の陣だ。 明日はセンタ-試験本番。絶対に失敗できない。 我が家は両親ともにローソンの店員をしているので、平日の夕食は母さんか通いのお手伝いさんが作り置いたものをそれぞれで食べる。いつもひとりで食べているから別に気にしたことがなかったけど…

ぬん三が怒った

給食の時間がやってきた。ぬん三は今日、給食当番だ。 ぬん三はみそ汁を運ぶ。なぜならいじめられているから。運ぶのが大変な汁ものは、クラスで一人だけベイマックスを見ていないぬん三が運ぶことになる。 みんな、連れだって先へ行ってしまった何メートル…

ボクちん家!

いつもいつものように、郵便受けの中で燃えている朝日新聞を消火しようとしたら、なんと! 消火器が切れていた!! 郵便受けのパコパコするところから、煙がもくもく出てるじゃん!「おかあさん!! 消火器ないよーーー!!」と朝一番でボクちんは叫んだ! …

初恋

あたしはこの学校に越してきた小2の時からずっと夜岡のことを気になっていた。ちょっと長すぎる前髪も、長すぎるから良いと思っていた。 だから夜岡の誕生日会に呼ばれたアオイちゃんから夜岡の誕生日会にいっしょに行こうって誘われたときは「別にいいけど…

人質安否の顛末

昨日のNo, 明日のYes - YouTube いくら師匠でも、あんなところへ野グソしに行くのは無茶です。危険思想をもつ民族が複数うようよして金を稼ごうといきまいているし、トラもヘビもサソリもいる。ヤリが地面から飛び出す仕掛け、『アポカリプト』の最初と最後…

工場見学

「ほら、みんな、説明してくださるって! ちゃんと聞きなさい!」 スーツを着た化粧の濃い三十代の教師が叫ばなくても、体操座りで並んだ子どもたち全員の目は、その巨大な装置に注がれていた。 それは、50㌢四方の立方体の金属の塊が6つ組み合わさったよ…

すきな人には二度と逢わない

教室に入ると、すきなひとが3人、なんでもないひとが19人、あとの8人はきらいです。 とくにまんなかの方でつんとすましているあの女の子と、いちばん後ろの、いまにもしゃべり出しそうに身をのりだして目をかっと開いた男の子、あれは大きらい。 みんな…

『第1回ガキの使いやあらへんで!! チキチキ クニヤス自由研究最悪裁判』

「おじいちゃんの七つのカス」という自由研究が大問題になったぼくは、いよいよ教育委員会から呼び出しを喰らってしまった。いったいどうなってしまうのだろうか。「大丈夫だ、クニヤス。先生がついてるぞ。お前の自由研究はいいものだった。自信を持つんだ…

探偵ゼロ物語~すべり台の少年~

少年が一人、暗い公園のすべり台をのぼってはすべり、のぼってはすべりをくりかえしていた。のぼる時はきびきびのぼり、すべる時は身体をまっすぐのばしてすべり、すべりおわると下の砂場に同じ姿勢でじっとしている。 数分ほどしてからいきなり立ち上がり、…

陽子(人生はゴムの味)

「灯油~ 灯油 ハンパな量でもオーケーです リッター単位で計算させていただきます」 町内に響き渡るその声。なんと明朗な、感じのいい美声であろうと陽子は思った。その心地よい調子によって全てのアレルゲンが除去されていったように思えて、陽子は電子レ…

猿時計、電波の彷徨い

起床。家族5人そろって朝ごはんを食べるというそれが変わらぬ日課で、日曜日の朝も例外ではなかった。適度にバターが塗られたトーストや脂ののったベーコン、コブサラダ、フルーツを平らげてしまうと、もう一度寝入るなんて器用なマネはできない。チンパン…

ホットドッグ・ドラゴン

ホットドッグしか食べないホットドッグドラゴンをひろったアキヨシのおこづかいが、今日、「妖怪ウォッチ真打」の購入のあおりを喰らい、底をついた。 このままでは、飢エ死ニだ! だからアキヨシはドトールまでホットドッグ・ドラゴンを駆った。 ホットドッ…

冬のザボエラ

「熱帯魚見せて」「マンガ見せて」の乱れうちによって、サークルの飲み会おわりで芋川さんの一人暮らしの家に招かれた俺。熱帯魚はみんな死んでたし、たくさん持ってると言っていたマンガは俺の持ってる1000分の1しかなかった。というか『ダイの大冒険…

んこみての 4

ホテルに帰ってすぐでした。すぐにわたしの班は全員、磯貝先生の部屋に呼び出されました。磯貝先生のテエブルの上には、灰皿に何本も吸い殻がたまっていておりました。先生はそれを奥の方へずらしながら、ほとほと困りきった顔で、アンドリュウがアゴを骨折…

死、もしくは横入りの世界

武男は郊外のアウトレットに向かって、高速道路を北へ快調に飛ばしていた。昨年、武男が所有するミニバンは、優秀なミニバンに贈られる賞のひとつをみごと獲得している。その車内、助手席の妻はスマートフォンで目当てのワンピースに関する情報を根気よく検…

んこみての 3

翌日は学校訪問でした。白樺にある、小さい頃に一度泊まったことのある、お父さんの会社の、セミナアハウスの生き写しだと思いました。 グルウプごとに案内され始めて、いくらもたたないすぐのことです。アンドリュウが、無理やり、わたしの手をぐいと引きま…

んこみての 2

飛行機のなかで、ごはんを食べるほかは、わたしはずっと、寝ていたようです。温度が、ちょうどよかったのです。キングスフォオド・スミス空港にあと1時間という頃、入国カアドを書くために、おとなりの安田さんに起こされました。 たいへんなスケジュールだ…

ネギトロと井戸の話

おやしきには、ふかい井戸がありました。でも、今ではぜんぜん使われておりません。にゃぜにゃら、ある日をさかいに、このおやしきの人々はみんにゃ、水を使わにゃいでもよくにゃったからです。 みにゃさん、お亡(にゃ)くにゃりににゃってしまったのです。お…

んこみての

その頃を夕刻と呼んでよいのでしょうか、お日様の光がずいぶん弱まったことを確かめて、私たちは色とりどりのスポオツウェアに着替えて、町へと出ていきます。靴紐をしっかり結んで玄関ポオチへ出ると、一花姉さんはもうストレッチを済ませて私をにこやかに…

リア・マニオンの台所糞便学(キッチン・スカトロジー) (前編)

彼女たちの最近の土曜の午前と言えば、西館裏のコートでテニスと相場が決まっていた。実際、日も傾きかけて陽明寺通りを北上し、スーパーの袋を両手にぶら下げてアメリカ人留学生リア・マニオンの部屋に向かう時、ヨネックス・ラケットのグリップゴムの芳香…

カンバセーション・ゾンビーズ

これは、現在テレビに出てる芸能人が全員死んだ未来の話である。 かなり極秘のとある研究所(駅近)、ホルマリン漬けされた志村けんの右腕が安置されている部屋(3階)に、芦田愛菜の遺体が運びこまれたその時(2時)だった。とつぜん、端っこの傘立てにさ…

授業参観で産まれた子供、2014年の松本人志添え

「母ちゃん、無理して来ちゃダメだからな!! ぜったい、来るなよ!!」 キッチンに向かって一発、大声で告げ、「来たら承知しないぞ!!」とダメ押しして、オイラは学校へと全力疾走した。 オイラのクラスでは、先生も含めた少子化24人クラス全員の、どい…

本当は恐い職業体験

「丸山、きょうの放課後、校長室に来い」 壇ノ浦先生からそう言われたオレだったが、校長室の場所がわからず、掃除のおばさんに聞くことになった。おばさんが何も言わずに歩き出したのでついて行くと、図書室を通る最短ルートで校長室に着いた。 ノックして…