んこみての 4

 ホテルに帰ってすぐでした。すぐにわたしの班は全員、磯貝先生の部屋に呼び出されました。磯貝先生のテエブルの上には、灰皿に何本も吸い殻がたまっていておりました。先生はそれを奥の方へずらしながら、ほとほと困りきった顔で、アンドリュウがアゴを骨折して救急搬送されたということを教えてくれました。
「彼は喋れないもんで、『転んだ』と筆記で伝えているそうだ」
 わたしは、あろうことか、もうちょっとで、つふつふ笑ってしまうところでした。だから、先生の部屋の、少し寝乱れて、シイツが斜めにはがれているベッドなんかを見て気をまぎらせながら、何か喋らなくてはいけないのだろうかと、心配していました。
 すると、宇田くんが口を開いたのです。
「先生、アンドリュウは笹来さんに言い寄ってたんです」
 みんなも続けざまに、まるでみんなで一つの文をこしらえるように言うのです。
「アンドリュウ、昨日からかなりしつこくて、笹来さんの隣ばっか座って」「そのせいでカレーもこぼしちゃったんですよ」「ちょっと顔がいいからってアイツなんなんだよな」「だから今回の件はかなり自業自得ってところがあるんです、先生」
 わたしは、みんなが、あれよあれよと喋り出したこともそうだし、その言い分にも、とても驚いてしまいました。わたしは、この件でみんなに疎まれているものと考えていたのですから。沼田さんや近藤さんなんかは、あんなにかっこいいと褒めそやしていたのに。
「笹来、どうなんだ?」と先生は苦虫をかみつぶしたような顔で、一番後ろに立っているわたしを見ました。
 わたしは、こうして立って、ぼんやりした顔を向けているけれども、胸の中では、不埒な言葉が、かちゃかちゃ勝手に、くみ上げられていくような気がしています。
「学校を案内してもらっている時に、アンドリュウくんが、突然、わたしの手を引っ張ったんです。それで、中庭まで連れて行かれて、なんというか、告白されたので、わたし、ちょっとビックリして、怖くなったので、逃げてしまいました。それからのことは、わかりません。でも、そんなに大きなケガをしたなんて……」
 先生は、うらめしそうな顔で、わたしの顔を穴のあくほど見つめて、あんまり問題を起こすなよ、楽しい旅行じゃないか、と言ったきり、黙ってしまいました。
 わたしは不思議と落ち着いていました。プライドの高い彼のことだから、ずっと転んだの一点張りを続けることでしょう。彼のプライドが高いかなんてわからないのに、そう思いました。でも高いに決まっています。知りません。何にも、知りません。いざとなって、追い込まれたら、わたしは泣いてやるにちがいない。自信ならあります。それに、飛行機に乗って帰ってしまえば、もうどうしようもないでしょう。旅の恥はかきすて。十時間も乗っていれば、ぜんぶ、きれいさっぱり忘れてしまう。先生の言うとおり、楽しい旅行じゃないか、残りの何日かを思いっきり楽しもう。楽しみ、楽しみ。