サリンジャー自身もまた、理想のような完全な孤独に暮らしたのではなかった。以下の例でも明らかになるので書かないが、とにかく、そういった作家と読者、人間同士の異様な非対称の関係は、多くのようなエピソードを現実にもたらすことになった。サリンジャ…
「太っちょのオバサマ」をご存知だろうか。ご存知であれば、ここまでちょくちょく思い出し、いつ言及するものか、ずっとしないんじゃないか、しないならコイツは救いようもない無能だと嘆いていたはずだと思う。 「太っちょのオバサマ」とは「シーモア―序章―…
接触不可能な沈黙する読者。当然、これは、安部公房が以下のように語ることとかなり似通った意味として現れるように思われる。 よく作家は、つまり自分自身のために書くと言ったり、いや、百万の読者のために書くとか、まあ、いろいろ言うが、これは全部嘘で…
さて、ここで作家と読者というものについて新しく考えを巡らせることもできそうだ。各自適宜、「マンガ家」とか広く「作者」とか自分の都合の良さそうな言葉に変換してもらっても構わない。 作家と読者の問題は、以前あげた村上春樹が言うこともそうだが、各…
あまりにも無礼だった自分。それで平気でいたのは、なぜかと考えないでもない。 自分の中に「完璧な人間」たちがとぐろを巻いているので……という仮説はしばしば頭をよぎってきた。 例えば、誰かが人を褒めているところを見るにつけ、求めてもないのに、スタ…
中学以来、自分という人間は、とにかく他人と関わって自分について何か言われることが、もっと言えばそこに存在することがとてもイヤだったというのは書いた。国語は非常によくできた。目立った行動は取りたくないので、校外模試や学校のテストなんかでは、…
ノートを眺めていると、太宰が証明するように、なることもできない「完璧な人間」の正体を、自分もまた追い求めているように思える。そうなりたいと思っているわけでもないのに不思議な感じだが、そうするより仕方がないという気がずっとあるのだ。だから、…
さて、「故郷を甘美に思う者」「あらゆる場所を故郷と感じられる者」「全世界を異郷と思う者」の三すくみは、村上春樹の「うなぎ」を連想させもするという話。 村上:僕はいつも、小説というのは三者協議じゃなくちゃいけないと言うんですよ。柴田:三者協議…
人間関係を、贈答、ギブ&テイク、義理に雁字搦めとなった気詰まりなものとしてとらえている太宰がいる、という話だった。そのくせ、という話だった。 兄妹、五人あって、みんなロマンスが好きだった。長男は二十九歳。法学士である。ひとに接するとき、少し…
「ね、なぜ旅に出るの?」「苦しいからさ。」「あなたの(苦しい)は、おきまりで、ちつとも信用できません。」「正岡子規三十六、尾崎紅葉三十七、斎藤緑雨三十八、国木田独歩三十八、長塚節三十七、芥川龍之介三十六、嘉村礒多三十七。」「それは、何の事…
もう10年近く書きためたノートがある。 読んだ本からの引き写しを並べたノートで、最初の2冊はなくしたが、大学に入って書き始めたものが3冊残って、今は6冊目になっている。 100ページのキャンパスノートにびっしり書いてあるので、もうどこに何が…
ホットドッグしか食べないホットドッグドラゴンをひろったアキヨシのおこづかいが、今日、「妖怪ウォッチ真打」の購入のあおりを喰らい、底をついた。 このままでは、飢エ死ニだ! だからアキヨシはドトールまでホットドッグ・ドラゴンを駆った。 ホットドッ…
「熱帯魚見せて」「マンガ見せて」の乱れうちによって、サークルの飲み会おわりで芋川さんの一人暮らしの家に招かれた俺。熱帯魚はみんな死んでたし、たくさん持ってると言っていたマンガは俺の持ってる1000分の1しかなかった。というか『ダイの大冒険…
ホテルに帰ってすぐでした。すぐにわたしの班は全員、磯貝先生の部屋に呼び出されました。磯貝先生のテエブルの上には、灰皿に何本も吸い殻がたまっていておりました。先生はそれを奥の方へずらしながら、ほとほと困りきった顔で、アンドリュウがアゴを骨折…
武男は郊外のアウトレットに向かって、高速道路を北へ快調に飛ばしていた。昨年、武男が所有するミニバンは、優秀なミニバンに贈られる賞のひとつをみごと獲得している。その車内、助手席の妻はスマートフォンで目当てのワンピースに関する情報を根気よく検…
翌日は学校訪問でした。白樺にある、小さい頃に一度泊まったことのある、お父さんの会社の、セミナアハウスの生き写しだと思いました。 グルウプごとに案内され始めて、いくらもたたないすぐのことです。アンドリュウが、無理やり、わたしの手をぐいと引きま…
飛行機のなかで、ごはんを食べるほかは、わたしはずっと、寝ていたようです。温度が、ちょうどよかったのです。キングスフォオド・スミス空港にあと1時間という頃、入国カアドを書くために、おとなりの安田さんに起こされました。 たいへんなスケジュールだ…
おやしきには、ふかい井戸がありました。でも、今ではぜんぜん使われておりません。にゃぜにゃら、ある日をさかいに、このおやしきの人々はみんにゃ、水を使わにゃいでもよくにゃったからです。 みにゃさん、お亡(にゃ)くにゃりににゃってしまったのです。お…
その頃を夕刻と呼んでよいのでしょうか、お日様の光がずいぶん弱まったことを確かめて、私たちは色とりどりのスポオツウェアに着替えて、町へと出ていきます。靴紐をしっかり結んで玄関ポオチへ出ると、一花姉さんはもうストレッチを済ませて私をにこやかに…
彼女たちの最近の土曜の午前と言えば、西館裏のコートでテニスと相場が決まっていた。実際、日も傾きかけて陽明寺通りを北上し、スーパーの袋を両手にぶら下げてアメリカ人留学生リア・マニオンの部屋に向かう時、ヨネックス・ラケットのグリップゴムの芳香…
これは、現在テレビに出てる芸能人が全員死んだ未来の話である。 かなり極秘のとある研究所(駅近)、ホルマリン漬けされた志村けんの右腕が安置されている部屋(3階)に、芦田愛菜の遺体が運びこまれたその時(2時)だった。とつぜん、端っこの傘立てにさ…
「母ちゃん、無理して来ちゃダメだからな!! ぜったい、来るなよ!!」 キッチンに向かって一発、大声で告げ、「来たら承知しないぞ!!」とダメ押しして、オイラは学校へと全力疾走した。 オイラのクラスでは、先生も含めた少子化24人クラス全員の、どい…
「丸山、きょうの放課後、校長室に来い」 壇ノ浦先生からそう言われたオレだったが、校長室の場所がわからず、掃除のおばさんに聞くことになった。おばさんが何も言わずに歩き出したのでついて行くと、図書室を通る最短ルートで校長室に着いた。 ノックして…
右乳房が黒木メイサの顔になる奇病にかかってしまった15歳の野良子(のらこ)は、気の強いメイサにお気に入りのブラジャーを食い破られた。 風呂場の脱衣所で、眼帯みたいになってしまったブラジャーを手に、思案に暮れる野良子。鏡に映ったメイサはつんと上…
ワインズバーグ・オハイオ (講談社文芸文庫) 作者:シャーウッド・アンダソン 発売日: 1997/06/10 メディア: 文庫 大江健三郎が綿矢りさに贈ったとかいう大野晋の『古典基礎語事典』「ながむ」の項にこうある。 ながむ 長い時間じっとひと所に目をやっている…
ちーちゃんはちょっと足りない (少年チャンピオン・コミックス・エクストラ もっと!) 作者:阿部共実 発売日: 2014/05/08 メディア: Kindle版 ベンヤミンは友人のショーレムに宛てた手紙のなかで、カフカ作品の登場人物についてこう書いている。 第一に、人…
お母さんが園芸を好きだから思うのだけど私はあの日のハンバーグと一緒にデイジーの種を飲みこんでしまったと思います。で便秘気味だから思うのだけど種がおなかで芽を出してぐんぐん伸びてしまったのだと思います。 私は基本よく言われるけどマイナス思考だ…
ようやっと電車がホームにたどり着き、3分ほど息を止めていた扉が大きく息をつくと、ホ-ムに人が溢れかかった。改札に出るには、上り下りで一揃い並んだエスカレーターを2回、"くの字"に下りる必要がある。 それまで人混みに埋もれていた小学生になるかな…
「好きなんだ、付き合ってくれ」 ガコガコガコ安藤くんガコガコガコガコガコががが言った瞬間ガコガコガコガコあたしのイトノコの刃が大きくたわんで木材とガチこんでとんでもねえ音が勃発。 パニックになってあわあわするあたしの足を安藤くん思っくそ足の…
苦慮という言葉は父からもたらされた。自分は父の言いなりに利き腕を右とし、日本語を母語とし、それからやはり苦慮することになった。分別を過度に知ることで失い、崖下に美少女の「ビ」が見えた。 自分は崖下に続く暗い道を下った。大阪近鉄バファローズの…