はみ出せ!

「馬鹿かお前らは! はみ出せ!」
 ここ、新田お絵描き塾では、はみ出さないことを許していない。
「俺がデモンストレーションをやる! 見とけ!」
 俺は服を脱ぎ、12色セットの中では比較的余りやすいと言われる、緑があるから別にいらないと言われるビリジアンの絵の具を洗顔料の如く掌に絞ると、ボディローションを普通より贅沢に使う人のように全身に塗りたくり、床に敷かれた巨大画用紙にダイブした。
「こうだ! こうだ!」
 ローリングを繰り返し、俺は自由そのものとなって、紙の上を、その周りに敷いたラップの上を転がりまくった。
「はみ出してるー!」とガキどもは騒ぎ立てた。
「馬鹿か! はみ出してなんぼだ! お前らも来い、カモン!」
 俺は転がりながらガキどもを鼓舞する。すると、やばい今日ばっかりはお母さんの言うこときいてらんない、という感じで心が躍り始めたガキどもはようやく、もう一つ余りやすい紺色の絵の具を掌に搾り出し始めるのだった。
 それからはもうある種のフェスティバルだった。ガキどもは紙をはみ出して、絵の具をぶちまけていく。これだ、これだぜ。Beタローだぜ。あっと言う間に三十分たてば、もう一面爆発焼け野原だ。いいじゃん、いいじゃんか。
「お前らなかなかわかってるぜパンクだぜ! そうやってどんどんはみ出さなくちゃいけないんだよ! お前らは自由だ、自由と友達だ! お前らが買ったノートは全部自由帳、お前らの生きるこの時間は全部自由時間、はみ出してナンボだ! お前らの塗り絵はたぶん汚ねえんだろうなぁ! お前らは、あ、馬鹿馬鹿ラップの外にはみ出してるよフローリングが汚れるだろうが! 最低限のモラルとかは心の隅に持っとけよまじで!」