教頭でオトす

「まず、この映像を見てください教頭先生」
 ある生徒から手紙で「放課後、理科準備室に来るように」呼び出された教頭は、それから現れた覆面をした五人の小学生にこれでもか言うほどびびっていたので、言われるままにテレビを見た。
「校長!」
 そこにはバスローブ的なものをまとった校長が立っていた。場所はどこかわからないが、本格的なテレビスタジオのように見えた。
「だまって見ろ!」
 一人が教頭のアゴを掴んで揺さぶった。それきり教頭は黙った。
 テレビの中では、震える校長の横で、これも覆面をした子供ら、今ここにいる彼らと同一人物であろう、その一人が趣旨説明をしていた。
『えー、つまりね。ご覧になったことあるでしょう。熱湯風呂でございます。もし校長が十秒間つかっていられますと、校長の勝ちとなります。つまり、僕等の願いは聞き入れられない。しかし校長が、十秒間もつかっていられないと、こら無理だ、とそうなりましたら、僕等の勝ちです。要求通りにしてもらいます。わかりましたか』
『いいだろう』
 校長は、苦虫を噛み潰したような顔で承知した。おそらく、そう言えと脅迫されているのだ。
 準備が整い、校長が熱湯風呂に続く階段を一歩ずつのぼっていく。校長は赤いパンツをはき、体は締まっていた。とても五十代後半とは思えない。校長が、風呂の縁に手と足をかける。へらへらと笑う声が聞こえる。画面が切り替わって覆面の子供らが映し出される。僅かに見える口角は、上がっているのがわかる。
 その時、校長が縁から足を離し、尻を下にして湯に入った。設置してある電光の時計が、時を刻み始める。
『あっつ!』
 2秒もしないうちに、校長は風呂を飛び出した。そして、すぐに横にある氷クズで冷やしにかかる。場内は爆笑だった。
 不覚にも、教頭は笑ってしまっていた。
「ふふ、面白いだろ。テレビみたいだろ」
「しかし、私にどうしろと言うんだ」
「もちろん、教頭先生にもやってもらいます」
「な、何だって。一体何のためにだ。君達の目的、その要求と言うのは何なんだ」
「ふふ、教頭先生、当初の僕等の要求は、もっと給食に揚げパンを、もっとコーヒー牛乳を、というものでした。でも、そんなことはもはやどうでもいい。今は、おもしろ映像を撮るのが楽しくてしょうがないんです。校長先生はちょっといい体すぎた。それはそれで面白かったけど、お前なんでそんないい体なんだよ、の面白さがあったけど、オチてない。オチてないんですよ。だから今回、沢山いる先生の中から、教頭先生をキャスティングしたんです」
 生徒達に上島というニックネームをつけられている教頭の目の色が変わった。