鼻の毛穴の結婚相手

 村長の娘の結婚相手が決まる日、ザリガニが大発生した。不吉な予感。しかし、当の鼻の毛穴真っ黒女は、それでも、
「やりますやりまーす」
 とトースト片手に宣言し、候補者の男達三人が鼻の毛穴真っ黒女の家に集められた。
 集いしは、純白のタキシードに身を包んだまずまずのブサイクたち。あと少し寝起きだったら、あと少しスタイリングが60点だったら、あと少し私服で来ていたら、おれ達は肩までどっぷりブサイクだった。そんな精悍な顔つきをしている。
 このブサイク達が家へ三人並んで入ってきた時、物凄い風が吹き込み、後光が差し、ザリガニの八割が青色になった。女関係に本気を出した時のブサイクとはこれほどまでに神聖なのか。あまりの衝撃に、部屋に置いてあった扇風機が自動的に首振り状態になった。
「誰を、お前にお父さんと呼ばれる筋合いにさそうかな」
 鼻の毛穴真っ黒女の父、鼻付近ホクロイボちょんちょんちょーん男(かわいそう)が、一人ひとりを指さしながら言い、いよいよアピールタイムが始まった。
 Aのブサイクは、なんと、初見の動物にもなつかれるという特技を持っていた。早速、試しにカメが用意され、部屋の中央に放たれた。とにかく、自分の前にカメがきた場合に限り、なついたものとしてやろう。そのカメは頭が二つあったが、手足がしびれたような歩き方でじりじり進むと、遠くの本棚の少し手前で止まった。
 ピピー! 十秒以上カメが動かなかったので笛が鳴り、一人目のアピールタイム終了となった。
「カメなのはともかく、ちゃんとした遺伝子の奴を用意して欲しかった」Aのブサイクは床に寝転がって叫んだ。
「はい差別」
 鼻の毛穴真っ黒女の姉である、女なのにスネ毛濃い濃い女がつぶやき、みんなの印象がかなり悪くなった。
 父のホクロイボはただ単に遺伝子のおかしいカメがうろつきまわっただけのアピールタイム中、時おり頷きながらその動きを目で追い、何かメモ帳にメモを取っていた。それは笛が鳴ると同時に破り取られたが、これが審査の基準になるのだろう。ホクロイボは、すぐに、次、次、という指の動きで促した。次いけ。巻きで。
 ピッ! さっきは開始の時に笛を鳴らさなかったのに、今度は鳴った。
 BB(Bのブサイク)は、マンガにむちゃ詳しいということで、マンガ知識をペラペラ喋り始めた。挨拶代わりに、スラムダンクの綾南と湘北の練習試合のスコアというジャブを出した途端、
「うるせえ!」
 女なのにスネ毛女が叫んだ。
 ピピー! それでアピール終了となり、ホクロのメモ帳がまた手首の返しによって破り取られた。そして、その紙が机に叩きつけられた。その刹那、部屋はまるで、換気扇をつけ忘れた風呂のように静かになった。
「と、いうわけで、結婚相手は、動物になつかれる奴に決定」
 日本中の子供達がどうか僕にはあれができませんようにと祈っているホクロイボが言い放ち、週一で毛穴パックをした方がいい鼻の毛穴真っ黒女は深々と頭を下げた。Cのブサイクと、あと大量発生したザリガニが驚いて次々とこっちを振り向いたので、ザザザッという音が外から聞こえた。
「森が鳴いている」
 その音を聞いて、マンガに詳しいブサイクがやや上を向いて言った。