遺志を継ぐもの

 クラスメイトに破られたTシャツを弁償してもらったというか新しいTシャツを買うお金をもらったというか、そんなヤスヒコは、お母さんの心配も聞こえない振りで、ほとんど初めて服屋さん(ジーンズメイト)に一人で出向くが、間違えたとかそういうのじゃないんだけど自分で合わせてみたら、MサイズでいいかもだってMって標準ってことだし、と思ったので中学生にも関わらずMサイズを買ってしまい、帰って来てみたら合わせてみた時と印象がだいぶ違ってダブダブでショックで、そのあと時間が経つと背も伸びたのでぴったりめのいい感じで着れたのだけど、このことが忘れられないまま九十五歳の大往生でその生涯を終える。
「そんなヤスヒコの無念を晴らすためだけに、おいら、この世に生を受けた!」
 自分の任務を忘れないために事あるごとにそう叫ぶシャツ彦は、見事にSサイズのティーシャツを服屋さん(ジーンズメイト)で買うと、その帰り道、さらさらと砂のように消えた。
 これじゃ短いので、その消えていった過程をもう少し詳しく書こう。
 シャツ彦は自転車のカゴにシャツを入れた袋を入れて、自転車をとばしていた。やったぞ、ついにSサイズを買ったんだ。これでもう思い残すことは何も無い。
「君、ちょっといいかな」
 横につけてきたのは、白い原付に乗った警察官だった。
 シャツ彦は真っ直ぐ前を向いて聞こえない振りをした。
「君、君!」
「え、なんですか」
 シャツ彦は止まらないドキドキに反してようやく自転車を止めた。
「自転車を確認させてもらっていいかな」
「え、僕のですよ。僕のです。これ、僕のです!」
「その確認をするんだよ」
「だから僕のだから大丈夫です! 僕のなんです。もう僕のなんです!」
「わかったから自転車から降りて。いやじゃあもういいやこのまま番号を」
 さらさらさらさら。