無免許

 僕は免許を持っていない。でもスポーツカーは走った。アクセルは右足でブレーキも右足でというのは正直まったく意味がわからないから、両足を使って峠を攻撃していた。そのとき、昨日のリンカーンで大竹がスポーツチャンバラの元世界チャンピオンに2連勝していた映像を鮮明に浮かべながら、「誰のせいでもない」という一言を脳裏に点滅させていた。
 だいたい飽きてきた頃、サイドミラーに白い車が見えた。車種がわからない僕には、それっぽい言い方が出来ないのがすごく残念だ。セダンってなんだろう。僕はアクセルを踏み込み、ガードレールに滑らかにぶつかりながら崖を曲がった。子供の頃ゲームセンターで思った通り、車の運転って案外簡単だなと思った。
 するとそのとき、背後が赤い光に包まれた。反射的にサングラスをかけた。
 そう、後ろで白い車が爆発したのだ。サイドミラーで確認すると、きのこ雲が出来ていた。
「核爆弾だ!」
 僕はアクセルを両足で踏んだ。高速で流れていく景色、その前方に、橋桁に執拗に蹴りを浴びせて特訓中の、上半身裸の格闘家風の男が見えた。
 僕はハンドルを握りながら肘でボタン2秒、わずかに窓を開けてひょっとこ口で叫んだ。
「おい、核を積んだセダンが大爆発だ! 早く走って逃げろ!」
「お、俺も君の赤い車に乗せてくれ〜!」
「しゃんがない奴だな!」
 僕は山崎邦生にオマージュを捧げながらブレーキを両足で踏み、ハンドルを乱暴に切って車を2回転させると鮮やかに停止。バックに入れて格闘家風の男のところまで戻り、そのまま轢いてみせた。
 格闘家風の男は「ウリナリ!」といった声を上げたが、それっきり何もない。僕が車を出発進行させて少し進むと、バックミラーに、既に森の獣たちがその死肉をむさぼり喰っている光景が映った。僕はそのとき、『ギャグマンガ日和』のウサミちゃんとかクマ吉くんを面白がって声高に話題にしていた同級生は死んじまえと思った。
 それがいけなかった。心の汚さを車という繊細な生き物は敏感に感じ取ってしまう。アイルトン・セナもまた、『ギャグマンガ日和』のウサミちゃんとかクマ吉くんを面白がって声高に話題にしてmixiのプロフィール画像にしていた同級生はみんな死んじまえということを運転中に思ってしまったのだということが直感的にわかった。
 絶対に突き破れないはずのガードレールを飛び越えて、僕は車ごと宙に飛び出していた。
 咄嗟に逃げだそうと窓を開け、腕を出すと、そこにいたのは内臓が丸ごと取れた格闘家風の男。こういうジョーク人形あるなと僕が思う間もなく、最近練習中の関節技(腕ひしぎ十字固め)を僕に決めた。タップしても全然離さない。
 僕は浮遊感の中で歯を食いしばり、id:harutabeさんに招待してもらったはてなブログの手続きを「何がどうなるのかわからない」という理由で今日もせず、申し訳ない気持ちになりながら、あと5秒で死んでみせましょう。