柔道部主将から最後の挨拶

「みんな、今日は俺たち三年のために、こんなに素晴らしい会を開いてくれてありがとう。DVDのが当たったビンゴは嬉しかったし、菅沼に聞いたら、録画もできるやつらしい。ちゃんとブルーレイのやつで。これは家族のとしてリビングで使うんじゃなくて、俺の部屋で使おうと思う。ありがとう、本当にありがとう。今日出た料理も、手作りケーキも、不安だったがおいしかった。ありがとう。出し物は、お前らは女装か裸になるかしか能がないけど、爆笑した。本当に楽しい、素晴らしい時間だった、DVD当たったし。さて、これで俺は引退ということになるが、この三年間を思い出すと、本当に色々あった。たくさん一本背負いもしたし、大内刈りも払腰もたくさんした。幾千もの横四方固め、名前がかっこいい山嵐、前から好きだった巴投げ、そして何より、星の数ほどの受身、何度も着直す柔道着。その全てが、汗とともに俺に身体に、心に、染み付いている。それだけじゃない、部活の帰りに食べたガリガリくん、冷や汗タラタラの期末試験、夏合宿の恋バナ、試合の帰りのファミレスのドリンクバーで飲み物を混ぜて橋本に飲ませたりしたこと、変な筋トレの道具を買ったりしたこと、それをあまり使わなかったこと、気が付いたら弟の部屋にあったこと、最後まで読んでない『YAWARA!』、わずらわしい柔道着の洗濯、帯を二回もなくしたこと、制汗スプレーとスースーするウェットタオルみたいのを山ほど使うお前ら、メンズビオレとかギャツビーのやつな、炭酸飲料を断つお前ら、いまいち見る気にならなかったオリンピックの柔道、でも母親が見るんでしょみたいに言うから見ていたあの数時間、その全てが、柔道に賭けてきた俺の青春そのものだ。これからは、オリンピックとかは今日もらったDVDで録画しようと思う。あれはHDDというやつで、あの機械の中に保存されるらしいから、それで録画をして、見たらすぐにワンタッチで消してしまえるらしい。これは凄く便利だと俺は思う。気合を入れて録画する必要が無い。今までなら、見たい気持ちが『一本』レベルでないと録画しなかったが、これなら見たい気持ちが『有効』いや『効果』でも、とりあえず録画してしまえばいい。消せるんだから。画質もいいらしいんだ。なんせ、俺は今まで録画といえば部屋にある古いテレビデオでやっていたが、テレビデオは、知っている奴もいると思うが、ガッチャガッチャうるさいんだ。使っていなくても、ふとした時にガッチャンガッチャンいうんだ。大体ビデオはかさばるし、画質も悪い。時間が経つと、音が小さくなってたりする。その点、DVDは凄くデジタルで、いいんだ。ほら、今もあそこにある。見てくれ、さっき当たった時もみんな見てくれたと思うが、もう一度見てやってくれ。SONYって横に書いてあるだろ、SONYのなんだ。な? あれをもらった今日のことも、また俺の心の思い出の一ページにしっかりと刻まれた。俺は白い柔道着を見るたび、多分引越しの時とかに見ると思うが、今日のことを思い出すだろう。そして、DVDを使っていて便利だと思うたびに、この三年間、茶帯で過ごした三年間のことが鮮やかに、フルハイビジョン? フルハイビジョンで甦ってくるに違いない。今日は見送る側のお前たちも、これから卒業まで、沢山の柔道技を繰り出していくだろうし、繰り出されるだろう、飽き飽きするほど受身を取るだろう、繰り返し柔道着を洗濯するだろうし、幾千ものガリガリくんを食べるだろうし、新しい味も出るだろう、当たることだってある、よくわからない筋トレの道具も二千円ぐらい出して買っちゃうだろうし、プロテインのでかい袋を買ってかなり余るだろう、DVDレコーダーが欲しくなって家族用に買おうと提案するかもしれないし、お父さんもオーケーしてくれるかもしれない、してくれないかもしれない、大学に入って一人暮らししたら買ってやろうと思うかもしれない、そのことばっかり考えて、DVDが欲しくて欲しくて、柔道や勉強がおろそかになるかもしれない、でも、それでいい。その全てが、お前たちが柔道に明け暮れた日々として記憶されるんだ。その全てが、卒業する時、卒業する時、『合わせて一本!』となればそれでいいんだ。かく言う俺も、今日までは、かなりこの三年間失敗した気でいたが、今日で、DVDで、『合わせて一本』までいけた。どうにかこうにかギリギリ滑り込んだ。お前たちもそうなるように、三年間で、『合わせて一本!』となるように、日々全力で、きらめきと汚泥の中を生きていって欲しいと思う。以上!」