クマの子ウーファー

 クマの子ウーファーは、ご飯のたびにお母さんから注意されるほどの食いしん坊。食べ物と見るや味も匂いも保存状態も関係ありません、なんでもかんでもとりあえず胃に詰め込んでから出たとこ勝負というこの畜生ぶり、どうでしょう。
 そんなウーファーが、元気いっぱい山道を歩いていました。
「僕の名前はウーファー、とっても食いしん坊さ。僕の名前は2ウエイ(ユニットが受け持つ帯域を、高音と低音に2分割する)、あるいは3ウエイ(高音・中音・低音に3分割する)のスピーカーシステムにおいて、低音域を受け持つスピーカーユニットの名称からきているんだ。でも、その由来はオオカミやライオンなどの唸り声だから、結局そういうことなんだ。というか、一番きてるのは、くまの子ウーフからなんだ」
 ぺちゃくちゃ喋らなくてもいいことを喋っているうちに、ウーファーはお腹が減ってきました。
「ぼく、なんだかお腹が減ってきた。食欲が、食欲が燃える」
 すると、ウーファーは木においしそうなリンゴがなっているのを見つけました。
「ぼくはとっても運がいいや。お腹が減った途端に、これだ。こんな都合のいい話は、友達に話してやりたいなあ。そういうエピソードになったなあ。でも、友達はにわかには信じられないだろうなあ。さあ、さっそく食べてやろう」
 ウーファーは、木に飛びつきました。うんとこしょ、どっこいしょ、んっ、はっ、はあっ、はあっはあっ、いっ、痛いたい、擦れてる、はあっ、とがったの、ひっかかって、くっ、なんだよ、はっ、はっ、血ぃ出た? はっ、はあっ、なんなんだよこれ最悪だよ、あっ、ああ、はあっ、しんどい、はっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、と休み休み登っていきました。
 そして、ウーファーはついにてっぺんまで登りきりました。
「ここはずいぶん高いなあ。海まで見通せる。クジラさんの潮吹きが見られると嬉しいのに、見えないなあ。うーん、ぼくはクジラさんの潮吹きが好きなんだよなあ」
 ウーファーは、リンゴを一つ取ってかぶりつきました。シャリシャリ、モグモグ、はっ、ジュジュジュジュジュ、はあっ、うまい、甘いっ、うまいっ、グッ、シャシャッ、んはっ、ガシャッ、んっ、んっ、ビシャビシャビシャ、ジュジュ、ジュ〜〜〜んっ、んはあっ、はあっ、はあっ、うまい、ジュシュシュシュ、シャ、と、二十個もぺろりと食べてしまいました。
 ウーファーは木から下りて、また歩き出しました。
「ああ、おいしかったなあ。ぼくはモクモクしたリンゴはあんまり好きじゃないから、あれでちょうどよかった。本当においしかった。でも、それを表現する言葉をぼくは持たないから、そのあたりが食いしん坊としてはジレンマを感じるなあ。ぼくはもっと、みんなにこのおいしさを伝えたいのになあ」
 あれこれ独り言をしていると、そのせいか、ウーファーはまたお腹が減っていました。
「ぼく、なんだかお腹が減ってきたなあ。いや、さっき食べたばかりであることは自分でもわかっていて、おかしいことを言っていることは重々承知だけれども、お腹が減るものは減るんだ。食欲が、食欲が秋」
 よくわからないことをウーファーは言いました。その時、ソファの下にベビースターラーメンが何本か落ちているのを見つけました。
「ぼくは自分がこわい。お腹が減った途端、一度ならず二度までもこんな幸運が。こうなってくると、さっきのリンゴの幸運は友達は信じるだろう。でも、あれを友達が信じたとしても、あれを信じたからこそ、今回のことはさすがに信じないだろう。しかし、これが真実なんだ」
 ウーファーはソファの下に顔を突っ込みました。そして、手でベビースターをつまんで、口に運んでいきました。ポリポリ、モグモグ、んっ、ふーっ、ふーっ、カリカリカリ、んっ、ふーっ、ふーっ、くっ、はっ、はあっ、はっ! はっ、へっ、へっくしょグィーー! はっ、はっ、はっ、ポリポリ、ふーっ、ふすっ、ふすっ、ごほっ! ぅーごっほ! ポリ、おほっ、ごっほ! ポリポリ、ひゅー、ひゅー、カリ、カリカリカリ、と、苦戦しながらもすっかり食べてしまいました。
 ウーファーは顔の毛に付いた埃を払いながら、また歩き出しました。
「ああ、おいしかった。いや、自分でもわかっているんだ。ベビースター何本かを食べたに過ぎないと、わかっているんだ。でも、この満足感はなんだろう。腹の中にある得した感は。この気持ちは元々ぼくの中にあるものだったのだろうか。不思議だ」
 ウーファーが息を吸うたび、喉からひゅうひゅう音が鳴りました。埃をひどく吸い込んだのです。それでもウーファーは、ごちょごちょ自問していました。そしたら、なんか腹減ってきました。
「ぼく、なんだかお腹が減ってきたなあ。やっぱりあんなベビースターだけじゃとても足りなかった。大体、ちょっとシケっていたんだ。ぼくは知っているぞ、だまされないぞ。ぼくはギリギリ残っていたポリポリ感に欺かれていたに過ぎないんだ。食欲が、食欲が怒っている!」
 真顔のウーファーは力強く吠えました。その時、テーブルの上に味噌汁がこぼれて少しの湯気をたてているのを見つけました。
「今、ぼくの体は震えている。もう何も言うまい。ただ、これだけは言っておこう。ぼくは今日から奇跡の存在を信じるだろう、と」
 ウーファーはうやうやしく椅子に座りました。そして、首を傾けて角度を作りながら、テーブルにめいいっぱい顔を近づけて、大きく息を吸い込みました。すぅ〜、ペロペロ、ピチャピチャ、んっ、ひゅーー、ゾビビビビビッ、ゾビビビビビビビビビ、ビチャッ、ひゅう、ひゅう、ズッ、ズッ、はっ、はあっ、はあっ、はあっ、ゾビビビ、シュゾルゾルゾル、んっ、ゾッ、ゾゾッ、うん、んっ、はあっ、ひゅっ、ゾビビビビビビ、はあっ、はあっ、シャリ、シャリ、シャリ、シャリ、ズッ、ズッ、んはあっ、ひゅーー、はあっ、はあっ、はあっ、ヒュビロロロ、ビロロロロ、んっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ。ネギがありました。