みんなツバサで大きくなった

 先に言っておくと、ノブが刺青を入れるのを拒否したのはサウナに行けなくなるからだ。サウナとヤクザを天秤にかけたら、勢いでヤクザが飛んでいった。しかし、現実はそう甘くはなかった。
「ノブ、どうして刺青を入れない。どうして、大空組のロゴ・モンモンを背中と腕に入れないんだ」
 若頭は若白髪がいっぱいあった(ダジャレ)。苦労しているというより髪質の問題だろう。しかもそれがまた若頭の迫力をダブルアップチャンスにさせており、その賭けを若頭はことごとくものにしている。だからこんなに怖いのだ。
「はいっ、サウナに行きたいからですっ」
 ノブはやや上を向いてはきはきと答えた。
「ガマンしろ!」
 しかしノブの脳はNOという答えをはじきだした(ダジャレ)。サウナは古来からガマンするところのはず。ノブはこの論理の破綻に、偉い人へ口ごたえする糸口を見つけようとしていた。
「どっちの意味ですかっ」
「なに!」
「サウナはもともとガマンするところのはずですっ」
「サウナをガマンしろ!」若頭はクリスタル重そうな灰皿をつかんで手元に引き寄せる。「あと口ごたえするな!」
 禁煙中の若頭が灰皿のクリスタル重そうなやつを引き寄せたということは、百発百中で武器にする気だ。ノブの頬を汗が二つ三つ滑り降りる。擬人化するとニコニコ顔の水滴がソリに乗っていて相当楽しそうだ。しかし今は擬人化しなかったので、まるでノブの緊迫感がこっちにも伝わってくるよう。ヤクザの罰ゲームはかなり良い企画が揃っているという。
 若頭は往生際の悪いノブの髭剃りあとを見てため息を一つつき、自らのスーツの肩口へ手をそっと置いた。そしていきなり叫んだ。
「このロゴはな!」
 ビリリ! 若頭は袖を引きちぎった。ノブはビックリする。腕の大空組ロゴが丸出しになる。
「あの高橋陽一先生が描いてくださったものだぞ」
 確かにそれは、そのドリブル中の大空翼くんの絵は、『キャプテン翼』やその他それ以外のスポーツをからめた短編いくつかでマンガ界を大量リードする高橋陽一先生が「ぼくのマンガの主人公と同じ名前なんて、まさに「ボーリョ(クダン)は友達」ですね(オヤジギャグ)。GO FOR 2008!」というメッセージとともに2007年頃にEXPACKで送ってきてくだすった貴重なロゴ。全ての組員は、このロゴを腕と背中に彫りこまなければ、それってどうなのということになってしまう。
「ノブ!」
 罰ゲームの分かれ道に立たされたと知ったノブは、そこに立っている「本当の国の高橋陽一」と「嘘の国の高橋陽一」が浮かべる笑顔が、どちらも自分をだますように見えた。でもどちらの高橋陽一も悪気はないということだってちゃんとわかっていた。きっと自分の捉え方次第なのだ。それでドライブシュートが決まったり決まらなかったりするのだ。
 いつの間にか若頭はピストルを構えていた。ノブは初めて見た。覚悟を決めた。

「僕は刺青を……」 蝶々サンバ(蝶々サンバ)♪
「……入れます!」 ジグザグサンバ(ジグザグサンバ)♪

 あいつの噂でチャンバも走〜る〜♪