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えりり、ジャーマネを殺す。

創作

 えりりはフジテレビの控え室で、今日買ったばかりなのに血に染まりきった包丁を持って、肩で息をしながら立ち尽くしていた。
 目の前にはジャーマネの死体。
 えりりはジャーマネを刺した。胸を一突きした。物怖じしないと評されるだけあって、殺してしまっても包丁は落とさなかった。それから何度か刺してみたが、既読もつかないみたいに反応がなくなり、死んだとわかった。
 付き合っているジャニタレに「殺してもーた」と写真もうpしたのにこちらは本当に既読スルーされたえりりはもはやすがる神も父も母もいなかった。それを売りにしていた。
「えりりさん、出番です!」部屋の外からADの声が聞こえた。
「は~い」とえりりは刺した衝撃で壁にはりついたままになっているジャーマネの死体を眺めた。「あの、お弁当いただいてから!」
「困ります!」
「ちょっとだけなんです」えりりは包丁を強く握りしめた。「あとはチクワに青のりかけて揚げたやつ半分と、あとコーンの入ってるコロッケだけなんです」
「困ります!」
「コロッケはもともと半分なんです」
「困ります、巻きでお願いします!」
「巻きってなんですか?」
「これだからポッと出のアイドルは!」とADはあきれたように言った。「是が非でも巻いてくれないと困ります!!」
「なんで!」急に吠え、ジャーマネの死体の口に包丁を突っ込むえりり。「どして!」と言うと同時に包丁人味平の手つきで口角を水平に切り裂いた。
 ADに感情など伝わらない。「サンドウィッチマンさんも、みんなも待ってます!」とおかまいなしに叫んできた。
「みんなって誰!!」一歩、二歩、三歩とあごの横の皮が手前にたれて下の歯が丸見えになっているジャーマネの死体から遠ざかるえりり。
「筧さんとか、アドゴニーさんとか、みんな待ってます!」
 えりりは食べかけの弁当が置いてあるテーブルまで下がると、仁王立ちになって大きく息をついた。「どっちも誰よ」と聞こえないように言い、両手でしっかり握りしめた包丁を脇腹のあたりに固定した。
「けっこう有名なタレントさん達です!」と耳のいいADがドアをガンガン叩いた。
「それはあんたの……!」と言いながら走り出すえりり。小柄な体をさらに低めて、ヒラヒラのついた衣装を着て、まるで鉄砲玉のお姫様。頭をジャーマネの肩口あたりにぶつけるようにしてその腹に包丁を思いきり突き立てると同時に叫ぶ。「感覚でしょ!!!」ドンと大きな音がして、ジャーマネの死体の足が衝撃で跳ね上がった。
サンドウィッチマンさんが待ってるんですよ!」これでは埒が明かないと踏んだADは狙いをしぼって叫んだ。
サンドウィッチマンは」とえりりはジャーマネの死体に密着し、血のにおいのむせかえりを浴びながら、一番筋肉の手応えがある太ももに何度も包丁を突き立てながら言った。「テレビでパチンコしてるから」何度も何度も突き立てた。「誰が何と言おうとクソ! クソ!! クソ!!!」
「スポンサーさんですから困ります!」
バナナマンの関係性もクソ! クソ!! クソ!!!」
「それは……困ります!」
「2ちゃんで評価されてようとクソ!クソ!!クソ!!!」だんだん手応えがなくなってきた大臀筋をあきらめて再び腹に包丁を今度は深く差し込んだえりりは、ジャーマネの死体を壁からひっぺがし、そのまま自分ごと移動を始めた。「嫌味がなかろうとクソ! クソ!! クソ!!!」とジャーマネの血だらけサマーニットに口をとられながらも怒鳴った。口に含んでジュージュー血を吸った。
バナナマンさんはともかく、サンドウィッチマンさんは震災に関しても色々活動されてるんで困ります!!」
「あたしに関係ないから」とさすがに重いか苦しそうに言って、えりりはジャーマネの死体ごと、ADが外にいるドアに向かってほぼ対角線を走り出す。「そういう感覚っ、ぜんぜんっ、わかんっ、ないからっ」足取りは力強く、ぼちぼち死後硬直の始まっているジャーマネの体がしんなりとくの字に折れて宙を駆けるほどだ。「ほんとにっ、腹立ってっ、しょうがっ、ないっ、かっ、らっ!!!」
 えりりはジャーマネの死体ごとドアを突き破った。すさまじい勢いで倒れたドアによってADがたちまち圧死。皮肉なことに、彼が何より愛したテレビ局の重々しい金属のドアが命取りになった。遡行する導火線のように血がひとすじ漏れ出し、タレント達に収録開始を告げなければという使命感がその血にも流れていたとでも言うように長い廊下を進み始めた。
 しかしその必要はなかった。そこには騒ぎを聞きつけて相部屋の楽屋を出てきた筧利夫とアドゴニーがいた。見開いた四つの目がえりりとジャーマネの死体に向けられた。
 えりりもまた大きく目を見開いていた。彼らは呼吸も忘れて見つめ合った。
ナメック星人……?」と21世紀生まれのえりりが言った。そして筧利夫を見た。「……と?」