スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス

 博士がつねづねから口をすっぱくしておっしゃりたそうな顔で川のへりを見つめていたのは、人間の全ての「もう少しがんばりましょう」は、80%が「俺の知ってる話をしな!」という黒い気持ちが原因だということです。
 合コンでは、「俺の知ってる話をできた!」人間から、気に入った女を自宅マンションできますが、この時、そっと心をのぞいてみたら、炭火焼き地鶏のようになっているでしょう。このそのまんま東が。
 こういうことを日常茶飯事に行っている人間は、死ぬときはあなたが笑って他の人が泣いているようにしなさい、という人生を知っているおじさんからの言いつけを根元から守れません。
 ダンボの最初の方では、明らかにサルみたいな少年が脇の下に広げたジャンバーを耳に見立ててダンボをバカにしますが、堪忍袋の緒が切れたお母さんゾウに尻をしばかれるのはご存じの通り。ああいうサルみたいな奴が大人になると合コンをするんだ、と博士はおっしゃりたそうな男前な顔をしていました。誰かをバカにするとは、「闇を奏でるロックンロールバンドのボーカルは俺だ。だから合コンするんだ」という理屈です。バカヤロウどもが。
 人間、黙っていればかっくいい、と世阿弥がアラレちゃん口調で言っているとおり、人間、かっくいくしていたければ、黙っていること。これがみんなとの約束でした。でも、喋っています。どいつもこいつも、とにかくよく口を開け閉めします。そしてよく勘違いします。ピノキオは、キツネのでかい奴に見世物小屋につれて行かれたと思うと、ステージで階段から転がり落ちて、鼻で敷板を貫いた挙げ句、ウケたので調子づきました。ああいうのがいけません。コオロギはちゃんとその前に「まっすぐな道を外れかけたら 口笛吹いて お呼びよ」と言ってたはずです。どうして守れない。喋んなや。「俺はダメ人間だ」とか半笑いで言わず、口笛で呼ぶべきです。鼻のびのびウソつきサロンシップどもが。
 博士は不言実行の男です。喋らないぞと黙って決めて、本当に喋りませんでした。最後まで、小汚い人間どもの世界で、お口のチャックを締め続けた者は幸せに絶対なります。ピノキオのギデオンは、ギデオンってさっきのでかいキツネの子分ですが、マヌケで無口でしたが、無口なのでマヌケなりに幸せそうでした。そういう人には、神様の多数決で輝かしい人生が待っています。繰り返しお知らせしますが、博士は喋りませんでした。
 だから博士は私をお作りになったのです。私の話は、博士の話とディズニーの話が半々になるよう設定されています。
 私の知る限り、博士が現実に口を開けておしゃべりになったのはただ一言。
「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」
 博士は、人魚姫の本当は怖い方の交換条件のまま生きておりましたが、決して希望を捨ててはおりませんでした。そして、私の話を聞きながら、心から星に願いつつ、3年前に亡くなりました。