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聞きしに勝るエアコンの当たり具合

「今日集まってもらったのは他でもない。先日の戦いで悪の怪人総統、エレガンス・ヤーマダと首相撲になったとき、耳の後ろに取り付けたソニーさんの超小型レコーダーが、昨日また首相撲になったときに回収されたことは知っているな。その音声についての研究チームからの解析結果がまとまったのだ」
 名前はわからないがリーダーの人がそう言ったので、新米隊員のヒデルはゴクリとやった。まさか自分が入社した途端にこんな山場がくるなんて、まさかボーナスが出るのか。入社一年目でまさかのびっくりボーナス……こいつは同級生に自慢できる。
「今から私が、そのレコーダーから得られた情報をホワイトボードに書くから、それまで各自、自分なりに予想して考えておいてくれ。当たった人には……」
 リーダーの人は紙をチラチラ見ながら、ホワイトボードに書き始めた。みんなから見えないように、体で隠すようにして書いている。「手書きかよ!」と雄叫びをあげたいヒデルだが、誉れ高きリーダーの人を怒らしてはせっかくのボーナスがパー。黙って、シャーペンで爪垢をほじくり出す作戦を選択した。
「ああもう、汚えなぁ新入り。机に爪垢を落とすんじゃねえよ」
 お隣の先輩に目をやるヒデルだがその顔はすでに接客業に向いていなかった。先輩もその顔を見て、やるのか、俺は客だぞ、という顔で応戦する。
「まぁまぁいいじゃないのさお二人さん。そんな怖い顔しないでよね、あたしに免じて、ね? ね?」
 間に入ってくれたのは、紅一点の女怪人、夜用・セミナプキンさん。もともとは敵だったが、戦いで負傷して置いていかれたところを捕らえたら第二次大戦中の日本兵捕虜のようにペラペラ喋りだし、そのまま居ついて「社員登用めざして頑張ります、脱ぐ仕事もできます」とまで宣言した。しかし、悪の組織からのFAXによると、あと一週間の命だ。
「爪垢テーブルに落としてすいません」
「わ、わかりゃいいんだよ」
「そこ相談しない!」
 リーダーの人が振り返って怒鳴った。そしてなめらかに横移動した。
「さあ答えあわせだ」
 ホワイトボードに書かれていたのは、以下のような内容である。


『・今どこ?
 ・次の次の次の…次?
 ・次で降りる?
 ・今なに駅?
 ・切符わたされてないよね?
 ・降りる?降りる?』


「これがレコーダーに入っていた主な台詞だ。新入り君、わかるかね」
 いきなり指されたヒデルは平成生まれなので下を向いてしまった。そして小さな声で、別に…とつぶやく。
「つまり、怪人たちはお母さんと電車に乗っているということね。そうよね、ヒデルくん」
 夜用・セミナプキンさんがフォローして、ヒデルが、そうです、と言おうとして顔を上げる前に、
「ビンゴ」
 という声が部屋の隅から聞こえた。
 一斉に体ごとそっちを振り返る音がする。そこでは、裸に半そで革ジャンを着た二枚目が腕組みをしながら手でピースサインを作り、エアコンの風が一番当たっていた。
「な、なんだね急に。チョッキリチョメチョメ・マングリマンくん」
 チョッキリチョメチョメ・マングリマンと呼ばれた男は子供の頃からの落ち着いた口調で喋り始めた。
「リーダー、あんたさっき言っていたね。あんた、におわせていたね。あんたこう言ったよ。当たった人には……と。豪華賞品が、と。そう、豪華賞品が、とね。さぁ、今こそ豪華賞品とやらを発表してもらおうか」
 チョッキリチョメチョメ・マングリマンの爆弾発言にリーダーの人はいかめしさの中に虚を突かれたようなところもある感じに早変わりし、こんなに部下がいっぱいいるのに、チョッキリチョメチョメ・マングリマンのことと自分の将来しか見ていない感じを出してしまっていた。豪華賞品とは言っていなかった、とヒデルは思ったが、豪華賞品にしておいた方がのちのち自分も甘い汁が吸えるはずだと思い、そうだそうだ、という顔をした。隣を見ると、セミナプキンが「ハーワーイ、ハーワーイ」と足の一本をリズムに乗せて宙に突き出している。それはあっという間に全員に伝わった。
「ハーワーイ、ハーワーイ」
 見ると、チョッキリチョメチョメ・マングリマン自身も拳を突き出してハワイコールをしている。
「な、なんだと。みんな、待ちたまえ。ちょっと待ちたまえ。チョッキリチョメチョメ・マングリマンくん。君が正解していたという証拠がどこにあるんだ。こんな契約は無効だ!」
 それを聞いてチョッキリチョメチョメ・マングリマンが動きを止めて紙を一枚手に取ったのでハワイコールはたちどころにやんだ。そして、紙がゆっくりと掲げられる。一言、「電車移動」と書いてあった。