名参謀アキラ先輩の凄さについて

 店員が明らかに俺たちのパスタを持って歩いてくるのがわかった瞬間、電気ショックが走った。
「よくばりペペロンチーノのお客様」
 番長の手が胸の前まであがった瞬間、舎弟ナンバー2先輩が勢いよく立ち上がった。
「よくばりってお前、誰に言っとんじゃコラ!」
 そしてポケットに手を突っ込んだまま、斜めになって店員にガンをくれる。
 番長先輩はゆっくりと手を下ろし、腕を組んで憮然とした表情になった。そして言った。
「よくばりって誰に言っとんじゃコラ」
 同じことを言ってしまった番長先輩を見るに見かねて、隣にいた名参謀アキラ先輩が番長先輩に耳打ちした。アキラ先輩は縁なしメガネの左脳派、俺が最も尊敬する人だ。番長先輩は店員を見据えたまま、言い放った。
「主語がわからんわ」
「主語がわかんねえぞコラァ!」と舎弟ナンバー1先輩。
「失礼いたしました」
 店員は言って、よくばりペペロンチーノを番長先輩の前に置いた。みんな、これ以上なにを言えばいいのかはわからないらしかった。だいたい、さっき注文の時は普通に注文したのだ。
「よくばりアラビアータのお客様」
 また違う種類の電気が走った。そのにくい注文は名参謀アキラ先輩のものだ。よくばりアラビアータには、普通のアラビアータよりもアスパラが腐るほど乗っている。しかし、名参謀アキラ先輩は返事をしなかった。
 俺はかつてないプレッシャーを感じていた。舎弟ナンバーから考えて、今回は俺がいちゃもんをつける雰囲気になっているのは明らかだった。舎弟先輩がたを見ると、いったれいったれ、今や、今や。そして俺は最高機関である番長先輩の顔をチラリ。番長先輩はもう、濡れナプキンを開けるまでもなくペペロンチーノを食べ始めていた。つむじが見える。名参謀アキラ先輩は、自分の注文なのにも関わらず、店員を無視して俺たちとはまったく違うところを見ているようだった。
「よくばりアラビアータのお客様?」
「そちらです」
 俺は名参謀アキラ先輩に手を向けて、それだけ言った。店員が立ち去ると、舎弟先輩がたは顔を真っ赤にして俺をにらみつけ、それから袖を引っ張り合い、
「ちょっと失礼しますわ」
 コップを持ってドリンクバーに立ち上がった。
「ん」
 番長先輩は皿に顔をつっこんだまま返事をして、名参謀アキラ先輩は濡れナプキンで手を拭き始めた。店にはなぜかラテン調のBGMが流れていた。
 舎弟先輩が行ってしまうと、名参謀アキラ先輩は、たぶん俺に向けて言った。
「パスタをすすれる民族はな、すすったらええんじゃ。ボンクラに合わせる必要はないんじゃ」
 俺はやっぱり正しいことをしたんだと思った。そして、割り箸でパスタを食い始めた名参謀アキラ先輩をまたさらに深く尊敬した。