少年科学者リョウタ

 月極駐車場の一番奥、フリスク感覚でシンナーを吸う不良がたむろしているところへ、その少年は現れた。
「そこの不良たち、シンナーは誕生日だけにしたほうがいいよ」
 その声に、全国の不良たちが次々と立ち上がった気がした。なめるなよ。
「なんだとぉ!?」「生意気な坊主め」「子供だからって、絶対にシメる」口々に叫び、チェーンを振り回す不良たち。ここぞとばかりに育ちの悪さを見せ付けてくれる。
「シンナーって体にいいことないよ」
 全くひるまない少年を見て、不良達は全員、色違いのナイフの刃をパチンと出した。というのは、普段は危なくないように刃がしまってあるのだ。不良の一人、成長痛の剃りこみマサシは今でも、皆でコイツを買いに行った時のことを覚えている。 あの時、今は天国にいっちまったケーキ屋ケンちゃん先輩が「キャンプでも使えんじゃん」と言ったことをマサシは忘れない。
「ぼくは天才少年科学者のリョウタ。算数理科はいつも百点満点、役に立つかどうか考えてる暇があったら因数分解、友達に薬品飲ませるエジソン譲りの好奇心、でんじろうの実験を見ても眉毛一つ動かさない筋金入りだよ」
 百点満点をとったことがないし、因数分解は役に立たないと思っているし、エジソンは友達にしたくないし、でんじろうの実験で絶叫してしまう不良たちは、なんだか馬鹿にされたような気がしてくやしいので、ますますナイフをパチパチさせた。
「てめえなめてんだろうチビッ子め」「ガキンチョがでんじろうを呼び捨てにすんじゃねえよ」「上歩ける液体の実験とかド肝抜かれんだろうが」
「抜かれないよ。そんなにパチパチいわしたら、ナイフがバカになってしまうよ。メガネも、ツルを動かす支えのところからゆるんでくるでしょう。そうしたら、異常に小さいドライバーでネジを締めなきゃいけないでしょう」
「ゴチャゴチャゴチャゴチャ、やんのかコラァ!」
 そう叫んだのは、相撲観戦に行った時に誰かわかんねえけど朝青龍に勝った力士の背中に座布団を直撃させたのが自慢のキャプテン・リーゼント。一歩前に出て、少年科学者リョウタに詰め寄ろうとする。
 すると、リョウタは丸いフォルムをしたピストルのようなものを取り出した。円錐の先に小さい球体がくっついたような先っぽをしている。
「やべえ、あれはっ」「火星人のピストルだ!」「キャプテン、逃げて!」
「もう遅いよ。僕が発明したこのピストルZ(ゼット)からは、珍光線が出るよ」
 その台詞を言い終わらないうちに、黄緑色の光線がペカペカという音を発しながら先っぽから飛び出た。光線は水中ドミノと同じスピードで3m先のキャプテン・リーゼントに向かっていき、結構余裕があったのに、ナイフを振りかざしてお留守になっていた腹のところに直撃した。
「あっ、当たっちゃった!」悲鳴のような声をあげる不良たち。
 と同時に、ビビビビビビビという音がしたかと思うと、黄緑色の光が黄色に変わってキャプテン・リーゼントを包みこんだ。そして、キャプテン・リーゼントの骨が全部丸見えになった。
「はい注目。これ見てよ。シンナーのやりすぎで、骨が溶けているのがよくわかるでしょ。骨密度が三十点」少年科学者リョウタはそばにきて説明を加え始めた。
 光り輝く丸見えの骨を見て、不良たちは一斉に工場見学のような声を上げた。黄色い光に照らされて、溶けかけの前歯と笑顔が輝いていた。