カウントダウン

 西暦2X06(にせんエックスっぴゃくろく)年、下馬評どおりにオノデン坊やが駆け回り、さすがにライターでびっくりするような部族は消えた。二十一世紀初頭の徳島ぐらいに栄えた今日のアマゾンの奥地では、今日も二槽式洗濯機が回りまわる。
 しかし、人間の業はこれほど深いのか。車が宙に浮いても犯罪はなくならない。総理大臣がロボットになっても、ババアがオレオレ詐欺に引っかかり続ける。未だにいろんなところが火気厳禁になっている。これが俺たちの未来か。これが青春か。
 そんな世界で暮らすチビっ子で結成された盗賊組織「トンズラ団」は、年末になって急遽、総理大臣ロボット小野寺ワシントンDCを大晦日に盗み出すことに決めた。 しかし、この一見無茶な作戦決行を決意したのには、少々のわけがある。12月28日、彼らのアジトに一人の少年が現れた。トンズラ団に入りたいと言うので、ちょっぴり荒っぽいテストをすることにしたのだが……。
「はい電気ショック。はいエレクトリカルショック」
「う、うわー!」「体がしびれて動けないや」「いったいぜんたい何をしたの」「ぜひ知りたい」次々とはいつくばるメンバーたち。
「だから電気ショックだって。俺は超能力が使えるんだ。俺の名前は小野寺カウントダウンTV。何を隠そう、小野寺ワシントンDCの孫なんだ」
 いつの間にか、トンズラ団の体のしびれはなくなっていた。
「なんだって!」「てことはお前も、ロボットなのか」「ロボットが超能力を使うの?」「電気ショックって超能力なの?」「ていうか、名前があんまり関係ないじゃないか」
 小野寺カウントダウンTVは知らん顔をして、話を続けた。
「お前達トンズラ団には、国の最重要人物であるうちのじいちゃんを盗み出すのに協力してもらう」
「このロボット、正気かよ」「無理だよ」「今までにトンズラできた限界は、20型のテレビだぜ」「絶対やめといたほうがいいよ」「全然乗り気しないよ」
 小野寺カウントダウンTVは、声聞こえねーよという顔をしてから、やや上を向き、歌い始めた。




明日に仕掛けたイルミネーション不発
何かにつけてわさび醤油
体鍛えて歯を磨け


昨日の俺とは主旨が違う
背中をさすれば友達さ
人懐っこい犬だけ集まれ


水分摂ってロケットパンチ


強くなりたい時通えボクシングジム
単身ムーミン谷へ渡れ


世界が呼んでる男だもんで
だもんでだもんで(英検一級だもんで)
ニキビのできない男だもんで
だもんでだもんで(タワーマンションだもんで)


何度も言わせるな
眉毛の角度で喜び悲しみ
そんな仕掛けでうん百年


いい乳してんじゃねーか!



 静かになったアジトでは、天井裏からネズミが顔を出した。
ヤン坊マー坊天気予報によれば、明日の天気は雨・雨・雨。防水加工の俺の力とお前の手助けがあれば、きっとじいちゃんを盗み出せる」小野寺カウントダウンTVは壁際の方へ歩いていき、足首からのびているコードを引っ張り、コンセントに差し込んだ。そしてトンズラ団の方に振り向いた。
「延長コードの準備を忘れるなよ。俺は歩くぞ、大晦日はさぞかし」