ラクダ本部長

 会議室では、ラクダ本部長が報告を開始するところだった。
「はいみなさん、いよいよ、件のアンケートの結果が出ました。正直言いまして、私としても、ラクダとしても、予想外の結果が出ております。凄いです」
 普段から冷静な本部長が口をもぐもぐ、鼻をふがふがさせてその興奮ぶりを露にしたので、生きていても特にこれといって楽しみが無いラクダたちは沸いた。
「はやく発表してくださいよー」
 そんな声があちらくだこちらくだから出たので、ラクダ本部長は、いきまっせ、というように姿勢を正してから結果を読み上げ始めた。
「イヌ派、36%」
 無言のラクダ達。
「ネコ派、40%」
 ラクダ達は黙って本部長を見つめていた。本部長は、そこで少しためた。いや少しどころじゃない、結構ためてる。吉本芸人に換算すると、野生爆弾のコントぐらいためてる。本部長はゆっくりと全員を見回した。ラクダたちはそわそわし始めた。
「はやく!」我慢できず、血気盛んな若いラクダが叫んだ。
「ああ俺、緊張してなんかウンコ出そう!」と別のラクダ。
「ラクダ派、24%」
 本部長の発表は「ウンコ出そう」に畳み掛けるようなタイミングだったが、ラクダ達はそんなことは気にせず喜びの声をあげて騒いだ。人間に換算するとネコ派の結果が出た時点で結果がわかるというものだが、ラクダは計算が出来ないのだからしょうがない。結果を聞いた時の喜びは、小学生に換算すると、お父さんが野球のチケットもらってきた時もいいところだった。
 しかし、しばらくすると、そんなに騒いでばかりもいられないなあ、いつまでも騒いでたらキリないなあ常識的に考えて、というのがラクダにもわかるというもの。静かになってくると、本部長に対する質問がなされた。
「東京は、ちゃんと渋谷で聞いたんですか!?」
 本部長は不敵に笑った。というか、ラクダはもともとそんな顔なので多分これはまじめな顔をしていたのだろう。
「このアンケートは、各都道府県で行なっています。東京では、流行発信基地の渋谷で聞きました。つまり、このアンケートは最新の、そして未来の主流となる意見を反映しています。ちなみに、渋谷ではラクダ派が26%にのぼりました。更に、関西地区に至ってはラクダ派が40%にものぼっています」
「それは凄い!」
「紀香と陣内の結婚式みたいな!」
 本部長はまたすぐにウカれようとするラクダ達を睨みつけた。
「統計によると、田舎になっていくにつれて、コンビニの数が少なくなるにつれて、ラクダ派の数が減っていくようです。関西の高い数値に関してですが、関西人のウケ狙い根性、わいはおもろいで、笑いの本場大阪出身やで、二人揃ったら漫才が始まるでしかし、始まるでしかし! という性根が、影響を与えていると考えられます」
「ラクダ派をチョイスするユニークなわい、というわけか」
「なるほどなあ」
「あ、あと、東京と大阪の数値は、落語の『駱駝』もちょっと影響してるかも知れませんねー」と若いメガネのラクダが言った。
「それはないな」と本部長がこれは個人的に言った。「あれ、別に動物のラクダ出てこないし。私からは以上です」
 落語の意見を言った若いメガネのラクダはしゅんとしてしまったが、他の全ラクダはそんなことお構いなしで、本部長がそうしたように、一段高いところにいるラクダ総統を見上げた。この結果には総統もさぞかし喜んでおられるだろう、と発言を楽しみに待った。大体、落語に関心があることを自らアッピールする若い奴というのは人間に換算してみてもウザい。
 総統は、思いのほか不機嫌そうな顔をしており、目も閉じていた。
「で、どうなの」と総統が口を開いた。うわーニチャニチャしてる。
 その低い声に、全ラクダに緊張が走った。
「その数値から考えてみてでいいんだけど」と総統は続ける。
 本部長は総統の視線を受けて震えている。
「飼ってもらえるの、結局」
 ほとんどのラクダが、総統が本部長のこと見ていらっしゃるしここは本部長お願いします、と本部長を見た。本部長は総統を真っ直ぐに見上げたまま、みるみるうちに、ラクダなのに汗だくになっていった。