ゲットバック、お姉ちゃん

「ちょっとコンビニ行くけど、買ってくるものある?」
 お姉ちゃんの言葉の何気なさが、逆に僕のシックス・センスにツーンときたんだ。これは何か、国家的なFBI的な陰謀を後ろにまわした罠に違いない。見ろ! お姉ちゃんの格好は、いつどんな凄腕スパイが来ても、埃のたまってる家具の隙間に遠慮無く隠れられる、上下ジャージの戦闘バッチコイスタイルじゃないか!
チップスター
「あんた、またそれ?」
「とでも言うと思ったかい」
 お姉ちゃんは、たじろいだ。そうさ、きっとそれは、僕が、大好きなナビスコチップスターと答えることを前提にした質問だったに違いないんだ。FBIとかCIAとかNTTといった、闇に包まれた組織の指示なんだ。
チップスターなんか頼まないよ。残念ながら」
 僕はその言葉に、お姉ちゃんそんな組織に関わるのはよしてくれよ、父さんだって僕等を養うためにまた仕事を探してるじゃないか、という弟であり長男らしい気持ちを込めたのに、お姉ちゃんはこう言った。
「何言ってるのよ」
 なんてFBIが言わせそうな台詞なんだ。僕は、FBIのマイケルとかボブとかジョンを憎んだ。あとケングリフィージュニアとか。くそっ、ケングリフィージュニアめ!
 でも、負けるわけにいくもんか。ケングリフィージュニアなんかに負けるわけにはいくもんか。僕は、お姉ちゃんを取り返さなければならないんだ。だから僕は、必殺の隠しナイフのような言葉を芋ジャージのFBIの手先に放ったんだ!
「お姉ちゃん、僕が買ってきて欲しいのはプリングルスだ」
 これで作戦は失敗でミッションがインポッシブルだ。僕はFBIを馬鹿にするナメた感じで思った。これでお姉ちゃんも僕らの世界に帰ってこれるかもしれない、僕はFBIの出方をうかがっていた。
 お姉ちゃんはあらぬ方向を見て何か考えるように黙っていたけど、やがて僕を見た。
「黄色のでいい?」
 お姉ちゃんがそう言うと、僕は僕の中のシックス・センスが、今夜はグッスリ眠れるな、と言う声を聞いた。プリングルスの味を色で判別するジャパニーズ的な発想が、お姉ちゃんがFBIの手から放たれたことを示していたんだ。安心した僕は、黄色の味はイモくさくて好きじゃ無かったから、満面の笑みで「やっぱチップスター!」って言ったんだ。
「あとジャンプも!」