モグラ叩き

 僕はモグラ叩きをしている。いつからモグラ叩きをしていたのかはわからない。でも僕は、ずっとずっと、モグラ叩きしかしていなかったような気がしている。
 僕が陣取っている腰までの高さのボックスは、横幅が両手を広げた長さ、つまり一尋あり、奥行きもそれと同じ長さ、そう一尋あり、だから正方形である。そして直方体である。僕がせいいっぱい手を伸ばして、ようやく一番奥の穴に手に持っているハンマーが届く。モグラ叩きをしながら説明しているのでうまく伝えられているかわからないけど、穴が縦に三個、横に三個、合計九個あいている。そこから、サングラスをかけたモグラっぽい生き物がランダムでひょこひょこ飛び出してくるのだ。僕の役目は、それをなるべく全部ぶっ叩くことだ。
 どれぐらいぶっ叩いただろう。僕は腕を休めることなくモグラをぶっ叩き続けたけど、不思議と疲れを感じることは無かった。この先もずっといつまでもぶっ叩き続けられるような気がした。その予感通りに、モグラはひょこひょこ飛び出し続けるし、僕はぼこぼこぶっ叩き続ける。
 それからまたしばらく、とてもとてもとても長い間ぶっ叩いた。一体いつまで続くのだろうかという思いが、また頭をもたげてきた。そこで僕は気分をかえて、目線を奥に移した。それまでは、手が届きやすい手前の六つの穴に狙いを絞っていたのだ。腰が少し疲れるが、僕は一番奥の真ん中の穴から出るモグラをぶっ叩くことが出来て、少し清々しい思いがした。って、あ、あ! 今! え? 一番奥の左奥の穴から、今、サングラスの! そうサングラスの! でもモグラじゃないよモグラじゃなかった! うわうわえ〜〜! 何って、あれすよ、ほら、タモリ、あ、タモさん。そうそうそうあのタモさん、タモリ倶楽部の。あーほらほら、また! 見た今? ちょっと笑ってた。ちょっと笑ってたよ。そうか、他より早いんすよ。他より引っ込んじゃうのが早いんすよ。やっぱタモリ、あ、タモさんだからやっぱちょっと早いんすよ。あーまた! そう言ってる間にまた! タモリ、さんが、出て。タモさん。ほんとですよ、タモさん出たんですよ。ほんとにほんとですよ。ほんとすよタモさんほんとすよ〜。タモさ〜ん。
 はともかく、僕はモグラ叩きを続けた。時々タモさん出てた。僕はいつまでもいつまでも叩き続けた。本当にいつまでも。しかし、僕は何となく感じていた。時々出てくるタモさんをぶっ叩けば、モグラ叩きを終わることが出来るんじゃないだろうかということを。でも、タモさんをぶっ叩くなんて、そんなこと出来るはずないじゃないすかタモさん。