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ませてないガキから退場

 既に、鼻血を出してぶっ倒れてしまった子供たちが何十人も医務室に担ぎ込まれていた。残っている子供は、五人。各々、やや斜めを向いて腕を組み、野球帽のツバを後ろに向けたいわゆるスケベかぶりで、鼻の穴をふくらませている。
「パンチラ」
 スタジアムの上の方に設置された非常に音質のいい巨大スピーカーから、おじさんの声が飛び出した。
 残された五人の子供たちは、それがどうした、全然興奮しないぜ、という顔をして、手を頭の後ろに組み、口笛が吹ける者は口笛を吹いた。さすが、ここまで勝ち残ってきただけはあって、どんどんエッチになっていく言葉にも、誰一人、鼻血を出すことはなかった。
 間違いなく、この五人の中に本物のマセガキが、いる。
 そしてまた、スピーカーから声が響き渡った。
「2連続パンチラ」
 同じく余裕の態度を見せるマセガキ候補達だったが、その時、「た、たまんねえ」と声を出して、一人が下を向いた。
 それは、パンチラ大好きヒロキだった。パンチラ大好きヒロキの鼻からは、タラリと鼻血が垂れていた。
「家に帰ってママのおっぱいでも吸ってな!」
 判定員がやって来て、赤い旗をあげて叫んだ。場内からため息がもれた。
 パンチラ大好きヒロキはパンチラが大好きで、パンチラを崇拝するあまり、公の席ではきちんとパンティーチラリと正式名称で呼ぶのである。パンチラの感想文を書くときは、パンティーチラリ現象とする念の入れようだ。
 パンチラ大好きヒロキは、上を向いてティッシュを鼻にあてながら、スタッフに支えられて退場していったが、途中で、残された四人の方を振り返った。
「俺はここまでだが……誤解しないでくれよ。俺は二連続パンチラ、二回連続でパンティーチラリする幸運に屈したわけじゃねえ。お前らはわかってないかも知れないが、今のはただの二連続パンチラじゃなかったんだ。つまり、その前のソロ・パンチラ・ホームランと合わせて、1+2のパンチラ・ターキーだったのさ。2度あることは3度ある、なんてパンチラには通じねえ。だって普通、1回チラリしたら注意するだろ。それが3回……この国はどうなってんだ。そんな起こっちゃいけねえ奇跡が、今、現実に起こったんだ。人知を超えれば鼻血も出るさ。まさか、俺のパンチラ好きがあだになるとはな。キング・オブ・マセガキにはなれなかったが、これで満足だよ……だって、優勝したら、ミサコちゃんにケーベツされちゃうからな……」
 他の四人は、その後姿をじっと見ていた。ソロ・パンチラ・ホームランとかターキーとか、何をわけのわからないことを言っているんだ。でも、パンチラ大好きヒロキ、お前は大した奴だったぜ。そして、ジェントルマンだった。お前は決して、どうせ隠すならミニスカートをはくな、とは言わなかった。なぜならお前は、隠してもいいからミニスカートをはいて下さい、というへりくだった考えの持ち主だったから。
 しかし、感傷に浸っている暇など無かった。
「ボインちゃん」
「や、やべえ。モーレツ!」と叫んで鼻血を出したのは、ボインマスターケンタロウだった。
「家に帰ってママのおっぱいでも吸ってな!」赤旗が上がった。
 ボインマスターケンタロウは、世界遺産を訪れるよりもボインを優先する考え方で、この前、学校遠足で牧場に行った際の乳しぼり体験で、ただ一人、終始ドスケベな顔をしていたという厚顔無恥と想像力で広く知られている。そして、ボインを絵に描く時は、普通の小学生なら完全な円を描いてしまうところを、半円。それほどボインに造詣が深いのだ。
「不意打ちのボインちゃんはやばすぎるだろ。心臓が止まるかと思ったぜ……。しばらく何も食べてなくていきなり味の濃いもん食べたら胃がびっくりする、あれのボインバージョンさ……。でもよ、ギネスブックに乗るようなメガトン級ボインあるけど、もうあれボインとかそういう問題じゃねえ、し……。うう、あと……俺がボインに夢中なこと、お母さんには内緒な……ていうか、お前らのお母さんにも言っちゃダメなんだぜ……だって…お母さん同士で情…報……交換が……」
 そこでボインマスターケンタロウは気を失った。
 残された三人は、担架に乗せられて運ばれていくその姿を見送った。ボインマスターケンタロウ、お前は本当に、真のボインマスターだった。一番好きな擬音であるゆさゆさを班の名前にしようとして女子から猛反対されたこと、決して忘れないぜ。
 そして、しばらく静かになった。次なるスケベな言葉を待っている緊張感に耐え切れず、観客が二人倒れた。その小さな騒ぎの中、次の言葉が発表された。
「バカ殿」
「あふっ!」鼻血をふきあげたのは、今回の優勝候補と目されていた、むっつりオールラウンドシンジだった。会場がどよめいた。
「家に帰ってママのおっぱいでも吸ってな!」意外な展開に、赤旗も心なしか勢いよく上がった。
 むっつりオールラウンドシンジは瞬時に横になり、ティッシュを何枚も何枚も取りながら、次々と鼻にあてがった。そして、残された二人の方を向いて、力なく喋り始めた。
「笑えよ……俺を笑え。思い出しちまったんだ……そんなバカ殿なんて聞かされたら、思い出しちまった。俺のスケベアーカイブが開かれたんだ。俺がもっと小さかった頃、バカ殿では確か……その……おっぱい……? うん、その、おっぱいが…そう、出てたんだ。誤算は、その記憶が今の俺でなく、小さい頃の何も知らないまっさらな俺と結びついていたってことさ。俺自身が仕掛けたスケベ時間差にやられるとは、しくじったぜ……そうか…志村は全てわかっていたんだ……俺がバカ殿を熱心に見るのは笑いを隠れ蓑にしてエッチなシーンを見たいからだって、志村の奴はとっくにお見通しだったんだ……熱いお灸をすえられたぜ……」むっつりオールラウンドシンジは顔を赤らめながら言った。
 とうとう二人になったが、その二人は、むっつりオールラウンドシンジが背中を丸めて歩いて退場していくのを見て、一つの時代の終わりを感じていた。しかしこれからは、自分達がスケベ小僧の時代を背負っていかなければならないのだ。むっつりオールラウンドシンジ、お前こそ、特に何にこだわりがあるというわけでもなく普通にむっつりスケベだったぜ。きっとお前のような奴が、一番父兄から気味悪がられるんだろうな。
 いよいよ次で、マセガキの中のマセガキが決まる。やがて、スピーカーが震えた。
「キッス」
「やべえ!」
「鼻血出ちゃう!」
 出ちゃうというかもう出ていたが、予想外の事態がおきた。なんと、勝ち残った二人、エッチ本欲しすぎ王者トシヒロと、ブラジャーに思いを馳せるコウイチ、が二人同時に卒倒し、そのまま気を失ったのだ。
「家に帰ってママのおっぱいでも吸ってな! 家に帰ってママのおっぱいでも吸ってな!」
 マセガキを決める勝負はノーコンテストとなり、二人は医務室に運ばれた。後に、気が付いたブラジャーに思いを馳せるコウイチは記者に対してこう語った。
「キッスは反則だろ。やべえよ。ドキッとしたよ。赤ちゃんできちゃう。だって、キッスしたら、赤ちゃんができちゃうんだろ。そんなの、小学生だし、まだ……まだ早すぎるだろ!」