ドッジボールで勝負だ!

 決勝戦を明日に控え、両チームのキャプテンが顔を合わせた。この様子はTBSで放送された。
「まず自己紹介をお願いします」と司会が言った。
「ファイヤー武蔵ボ――――ル、ロックON!」とカメラを指さして叫んだのはファイヤー武蔵、本気でドッジボールをやる人の格好をしている。本気でドッジボールをやる人は本気でローラースケートをやる人と見分けがつきにくいが、ローラースケートをつけているかつけていないかで判別できる。この場合、ファイヤー武蔵は運動靴をはいているので、これは明らかにドッジボールの方なのだ。「ナックルボンバーズインザスカイズのキャプテン、ファイヤー武蔵。15歳だ。絶対に、絶対にお前には負けない!」
 一方、相手は紺のブレザーの制服という格好をして、ファイヤー武蔵の躍動感を目前にし、「凄いな」と苦笑いした。「ぼくは岡田保則、柏南高校ドッジボール部のキャプテンをしています。君たちと違って、うちはチーム名とかないんだ。歳は、君の一つ先輩かな。今日はよろしく」
「明日の展望などをうかがいたいと思います。作戦などは言えないと思いますが」と司会は笑って「言えるところまでお願いします」。
「明日は、俺のファイヤー武蔵ボール3がお前を貫くぜ!」とファイヤー武蔵は立ち上がり、腕を振り上げた。
「ちょっと、怖いなぁ」と岡田保則。「頑張ってよけるか、キャッチします」
「お前の必殺技も、思い切り投げて来い。来いよ! 俺は逃げない、もうあの日の俺じゃないんだ!」
「ぼくは必殺技とかは無いけど、思いっきり投げるよ。今までで一番思いっきり投げるから、覚悟しておいてよ」
「お前の『思いっきりサンダーボールクロニクル』、この指がちぎれようとも、肘が爆発しようとも、胸が張り裂けようとも、真っ向から受け止めてやる!」
「勝手に必殺技にされちゃったな」岡田保則は司会を見て肩をすくめた。「まいっちゃうな」
 司会は一応微笑みを返し、それからファイヤー武蔵の方を向いた。「ファイヤー武蔵ボールは今回、3になったということですが、2とどこが違うんですか」
「体感速度がまるっきり違うんだ。速度こそ同じだが、体感速度が、2とは格が違うんだ。そしてその体感速度を生み出すのは手首の捻り方。左、右と、2とは逆に、つまり1の時に戻ったんだ。もちろん、捻りのスピードそのものが比べ物にならないけどね。そしてそれを証明するのがリストバンドの色、血のにじむ練習を重ねるうち、黒いリストバンドが」と言ってファイヤー武蔵は腕を胸の前に出した。「真っ赤に染まってしまったんだ」
 確かに、どす黒い赤のリストバンドがそこにあった。
「白ならわかりますが、黒が、赤に」と驚く司会。
「俺にファイヤー武蔵ボール3を伝授してくれたのは二代目ドッジボール・マスターだが、俺がこの技を完成させ、マスターに投げた時、マスターは糸クズのように弾け飛んだ。やはり、あの老体では、いくらマスターと言えども無理だったんだ」
「マスターはお亡くなりに……?」と司会が心配そうに聞く。
 ファイヤー武蔵は黙って、沈痛な面持ちで自分の胸を拳で叩いた。「マスターはここにいる。ここで、いつものように笑ってる。俺は明日、優勝して、この喜びをマスターに届けたいんだ」
「死んじゃってるじゃない」と岡田保則。「殺しちゃってるじゃない」
「お前が殺したんだ!」とファイヤー武蔵が岡田保則を指さす。
「え!」
「お前を倒すためにマスターは死んだ。ああ、お前は確かに最強だ。俺一人では敵わないかも知れない。だが、俺とマスター、いや、マスターだけじゃない、チームメイト達……あいつらとの団結の力には、お前の力は及ばないはずだ。俺は、あの地獄の特訓で崖の下に次々と全員落ちていったチームメイトのためにも、負けるわけにはいかない。ツトムに球念、毒島兄弟、ブルータス、爆発サブロウ、ロックマン、一年の三本槍、犬のバブリシャス、マネージャーのアケミ、そして、アケミのお腹の中にいた赤ん坊、その全員が、空の上から俺の燃えさかる闘志となってお前を睨みつけている、この真っ赤な炎が見えないってのかよ!」
「全員死んじゃってるじゃない」と岡田保則。「妊娠しちゃってるじゃない。高校生なのに」
「インザスカイってそういうことだったんですね」と深くうなずく司会。「ということはファイヤー武蔵さん、明日の決勝戦は一人で闘いを挑む気ですか?」
「ああ、見た目にはそう見えるだろう。でも、みんながついてる。みんなの命も、マスターとアケミが育もうと決めていた幼い命も、少しも無駄にはしない。俺は絶対にお前を倒す! それが仲間への弔いだ!」
「だめじゃない」と岡田保則。「君たちメチャクチャじゃない」
「決勝戦が、俄然楽しみになってまいりました」と司会がカメラ目線で言った。「この模様は、明日二時からTBSラジオでお伝えいたします。それでは」