一年前の丸まり

 暖冬の影響で、恒例の「丸まれ!直滑降選手権大会」の開催は危ぶまれている。山肌は丸出しで、リフトは「あたし達って、なんか、バカみたい」と言いたげに風に揺れている。
 委員長の児嶋は窓の外を見つめていた。
「委員長、前年度チャンプのヨシノブの調整は万全なんですよ」
「わかっている、わかっているとも」
「今ならバスケットボールぐらいのサイズにまで丸まれる気がするとまで言ってるんですよ。過去最高のコンディションなんです」
「……」
「ニールセンだって、去年の雪辱を果たすために、故郷のデンマークで顰蹙を買ってまで、日々ゲレンデを直滑降で滑ってきたそうですよ」
「しかしだね、雪が――」
「リフトを降りるあの坂になってるところからもう直滑降だったらしいですよ」
「その熱意はわかる。申し訳無いと思っているんだ」
「全然モテないらしいですよ。普通に滑ればモテモテのニールセンがですよ」
「わかっている」
「高倉君なぞは大会のために、途中でねじ曲がってるプロ仕様のストックを買ったんですよ。バイトで貯めた金でもってですよ」
 副委員長の岡田が去ったあとも、児嶋は外を見ていた。雪よ降れと願っていた。
 目を閉じれば、直滑降のダサさを極めた者達が次々と体を丸めて滑り降りてくる光景が、去年の死闘が、目に浮かぶようであった。リプレイした時の、あのダサさ。
 児嶋が目を開けても、やはりそこには無意味な坂があるだけだった。バスケットボールサイズまで丸まるヨシノブを描くはずの白いキャンバスはどこにいってしまったというのか。児嶋は去年のビデオを見返すために窓を離れた。