ドゥキューン(前編)

 その男は世界一ダーツがうまいと言われており、公式的な大会でも優勝優勝ときどき準優勝そのリアルな感じが逆に凄さを際立たせている。そんな男がこの地下に乗り込んできたのは天気がはっきりしない水曜日だった。
 地下に伸びる階段に設置された隠しカメラには、濃紺の仕立てのいいスーツが動いていくところが色々なアングルで凄くいい画質で映し出されていた。闇組織のレベルが知りたければ隠しカメラの画質を見ろ、とは有名な話だ。
 やや暗いモニター室でその様子をチェックしていた男は急いで副ボスを呼び出すため、室内の音楽を「ゲレンデが溶けるほど恋したい」に切り替えた。
「どうした」
 すぐさまドアが開き、副ボスは十秒もしないうちにやってきた。
「まず、これを見てくださいよ」
 指差した画面は真っ暗だった。
「なんだこれは」
「こっちを見てください」
 その画面にはスーツの男が映っていた。カメラをにらみつけていた。続けて男は胸ポケットから何かを抜き取り、脇をしめてあっという間に投げドゥキューン。何かが迫ってきていたと思いきや、画面はもう真っ暗になっていた。
「全部これですよ」
 他のカメラを見ると、男は今やられたカメラに向かって行くところだった。男は手を伸ばした。ズーム機能を使って手元をアップにすると、そこにはダーツがあった。
「ご覧の通りです。これでもう二十個やられました」
「何者だこいつは」
「現役ダーツチャンピオンの、ダーツ砂州股です」
 ドゥキューン。またやられた。
「こいつは……いくらボスでもやばいかも知れない」
 そのボスは今、百億円をかけたダーツ対決をホールでしている。防音壁が歓声をパーフェクトに遮断しているが、さっきまでの展開を見る限り心配は無さそうだ。もともとボスの実力は世界でも五本の指に入る。しかし、この男も入るに違いないドゥキューン。
「二十二個目です」
 副ボスはカメラが次々にドゥキューンやられてだんだん暗くドゥキューンなってくるモニター室で思っていドゥキューンた。ドゥキューン。なんでカメラをやられるのに音がドゥキューンするんだ。