卒アルは浮く!!

 晴れ渡った空に太陽がギラギラとここはハワイ。行ったことはないけど、主にさまぁ〜ずの番組で雰囲気を勉強したので書くことが出来ます。
 そんなハワイで今日は待ちに待ったサーフィン大会の日、卒アルを縦に三つ(小中高)つなげた自慢のサーフボードを抱えてやってきたシンゴは、白い歯をのぞかせて初めての海外、それもハワイ、その風(かぜ)にテンションも上がり、
「初めての海外だもんで、初めての海外だもんで」
 と申し訳なさそうな顔で外人混みをかきわけていくと、受付の前に出た。
「エントリーナンバー1000、卒アル・シンゴ」と言ってエントリー開始。
「エントリーナンバーはこっちで決めます。……!! でもあなたの番号!」
「え?」
「1000番ですよ!! すごい!!」
「おサンキュ」
 以上のやりとりは全て英語で行われたので、ちんぷんかんぷん英語無理なシンゴは普通に1000番でエントリーしたつもりで、さも当然のように笑って(あたぼうスマイル)、すぐに卒アルを抱えて、飛び跳ねて両足を打ち鳴らしながら砂浜に走り去ってしまった。
 シンゴが大会前はいつも、というか暇な時はいつもそうするように、砂浜に女座りで横に置いた卒アルを1ページ1ページ読んでいると、あっという間に順番が来た。アナウンスが響き渡る。
「エントリーナンバー1000! シンゴ・ソツアル!」
 この日一番の大歓声がシンゴに向けられた。すでにシンゴは、ず〜〜っと砂浜で女座りして卒アルを読んでいたことで、邪魔は邪魔だったけど、目の肥えたアメリカの野次馬の心をつかんでいた。
「はいはいはい、はい!!」
 と視線は卒アルから外さず手を上げて立ち上がるシンゴ。そしてこれは世界に聞こえないよう、小声で言う。
「たけしくん、はい」
 全世界から参加している、こういう大規模な大会でウケ狙いに走る男達が厳しい顔で腕組みをして見つめる中、水しぶきをあげて手ぶらで海に入っていくシンゴ。
「シンゴォ〜〜! ボードはどうした〜〜!」と観客。
 ウケ狙いの男たちも、各自で両手を口に添えて、ここぞとばかりに叫ぶ。
「水泳大会じゃないんだぞ〜〜!」
「バットを持たずにバッターボックスに行く奴があるか〜〜〜〜!!」
「水泳大会じゃあ、ないんだぞ〜〜〜!!」
 同じことを二回言うヤツがいる中、シンゴは舌をペロリと出してユーターン、バシャバシャ戻ってきた。
 そして卒アルのところまで来ると、シンゴはまた座って読み始めた。また中学校の卒アルを読み始めた。
「シンゴ〜〜〜!! 始めろ〜〜〜〜!!」
「サーフィンを始めろ〜〜〜〜!!」
「中学が一番楽しかったのか〜〜〜!!!」
 ハッとしてまた手ぶらで海に行き戻ってくるを今度はやや短時間でもう一度くり返し、やはり中学の卒アルを読み返し始めるシンゴ。観衆は含み笑いで見守った。
 今度の「読み」は長い……。
 シンゴの体が乾いてきたころ、シンゴはようやっと、こんなことしてる場合じゃねっかと立ち上がり、きっちり4回きょろきょろすると、いよいよ卒アルを抱えて、明るい笑い声を背なに受けて海へ。
 すると突然、巨大モニターにシンゴが18歳で取得した免許証が映し出された。運営側からの、こっちにも考えがあるというメッセージである。
 「MENKYO SHASHIN」という万国共通の笑いに、一足先に丘でビックウェーブが起こった。誰も野暮なことは言わず、ここはただ笑うだけのルール。
「ちょっとも〜〜〜〜カンベンしてよ〜〜〜〜!!」
 と叫んでいるようにしか見えないが真に全くの無音でシンゴは、思わぬサプライズにその場で1mほど宙に浮いた。
 そして、いすに腰掛けた体勢を崩さず6秒ほどかけて空中でゆっくり一回転する「恥ずかシンゴ」の動きを披露。世界中で再生数の多いダンス動画のような歓声が音割れの中で着地したシンゴは海へ。
 へそまで浸かったところで、ちょっと肌寒い、だいぶ時間あいたもんな……という顔のシンゴ。浜に、フルカウントからファールになった時の如く低いうなり声がこだまする。
 熱い風呂に浸かるが如く前歯と唇のすき間から息をひり出す音をホイッスル代わりに、シンゴは動き出した。
「発達障害、発達障害、発達障害、発達障害」
 卒アルの上に乗ってリズミカルにパドリング。あっという間に30m、いなせなカモメたちの下、波待ちジョニー状態と相成った。さっきまであんなにふざけ倒していたのに一転してかなり真剣な表情で、執拗に波をやり過ごすシンゴ。
 そして太陽が一番てっぺんに来た。するとまたシンゴの免許写真がモニターに映し出された。一笑い起こり、シンゴが浜を振り向いた。
 そこにとてつもないビッグ・ウェーブがきた。
 観客は、こちらを向いているシンゴの後ろに、上空のカモメを巻き込みながら巨大な青白い壁が現れるのを見た。
「シンゴうしろ!!!」
 でもシンゴは決して振り返らなかった。そう言われたら振り返られなかった。
 自分の免許写真を見ながらシンゴは飲み込まれた。
 それは全然笑えなかった。外人なので意味はわからなかったが、全員「死」という文字が頭に浮かんだ。ライフセーバーにつづき、ウケ狙いの男達も海に走った。
 何時間捜しても、シンゴは見つからなかった。卒アルも見つからなかった。海パンだけ見つかったので、みんな少し笑った。そしてたくさん泣いた。大会は中止になった。
 1年後、TKOがハワイにロケに来ていた日、浜辺にシンゴのサーフボードが打ち上げられた。ていうか卒アルが打ち上げられた。シンゴの中学卒業の写真は中1のときの写真だった。シンゴは登校拒否だった。だからこんなにハッピーな人間になれた。