奥へどうぞ、天才子役
ガラリと開いたが暖簾はピクリとも動かねえ。だが確実に入店している。
大手の課長クラスでギリ通えるレベル高え、居酒屋の仮面を被ったハイブリッドなお店屋さんに半袖シャツと短パンにビーサンで現れたこいつは一体。
「あの、子役で予約してるものだけど」
「はい?」
「ごめん間違えた。天才子役で予約してるものだけど」
「お待ちしておりました」
サングラスをずらして金魚のフンどもを振り返り、天才子役は舌を出した。
「そういや天才子役だったわ」
一番長いフンこと音楽番組プロデューサーは、その姿を見て思わず聞く。
「君、名前は」
知ってるのに聞く。
「花田図画、8歳。ナメコの味噌汁」
そして聞かれてねえ年齢と嫌いな食い物まで答える。
天才子役を除いて腰巾着は6人いるが、全員「これはいいことを聞いた」という顔で200mある廊下を一番奥の個室まで向かう。当然、先頭はなんでも一番でなければ気が済まない天才子役だ。
ちなみに廊下はベルトコンベアになっており、消費カロリー0で迷わず目的地まで行ける。案内する和服姿の女は土下座したまま一同を先導して東に動いていく。
その姿を30センチ手前、120センチ上空からじっと見つめる天才子役。聞いた。
「しかし、今日も客がいねえーなー」
「ええ、ごゆるりといたしませ」
「ポケモン配らねえーから客が来ねんだな。景気よくWi-Fiビンビンに飛ばしてポケモン、配れよな。もう、これもんでよ」
と言って、でかいチンポのジェスチャーをする天才子役。
「ワッハッハ!」
金魚のフンたちは手を叩いて、それからメガネをとって笑った。
対して、天才子役はポケットに手を突っ込んで真顔で黙りこんでしまった。やばい。もしやご機嫌を損ねてしまっただろうか。金魚のフンたちが財布に手をかける。はやく現金を。
ブッ!
しかし、不意打ちで、表情一つ変えずに、屁(エーヘー)をこく天才子役。くせー! 後ろにいるプロデューサーが顔をしかめ、鼻をつまみ、顔の前で手を振りながら思わず聞く。
「君、名前は」
さっき聞いたのに聞く。
「近田春夫」
そしてなぜか嘘を言う。全員が怪訝そうな顔をした。
「の百倍稼ぐ男」
「ッ勘弁してくださいよ天才子役さん!」
ダーッハッハッハッハ!
金の湿気でくぐもった笑い声が響く中、一番奥の座敷前に到着。和服の女が突き当たりの壁の下の部分に開いたビラビラつきの穴に吸い込まれて見えなくなった瞬間、ベルトコンベアが止まった。