主婦を集めてバラ色に染める

 西暦1999年、情報化社会のアイディアも出尽くした昨今、主婦の忙しさは増すばかり。まさに盆と正月のようなコンビネーションに忙殺される全国の主婦たちを救うべく、秘密結社「バラ色らいふ団9:50(くじごじゅっぷん)」が行動を開始したのであった。
 練馬区在住39歳の主婦フミコは、専用器具を使って子供を胸の前に手放しで取り付け、買い物帰りの重い荷物を持ち、家路をたどっていた。すると、空き地を通りかかった折、フミコの目に一筋の蒸気が目に入った。空き地の真ん中から細く噴き出している蒸気の、なんたる喉に良さそう具合。人生に疲れのたまったフミコは、荷物をぶら下げたまま、引き寄せられるようにフラフラと蒸気のもとへ。そしてフミコは迷うことなく、地面から立ちのぼる蒸気に顔を突っ込み、喉を開いて吸い込んで、瞬く間に気を失ったのであった〜!


「……う、うう……」
 フミコが気付くと、そこはテレビで、「ここには泊まりません」というギャグがやられるたびに憧れていたゴージャスな部屋であった。輝きが滴るシャンデリア、あっちこっちそっちのソファ、埋め込まれ式エアコン、家ではとても真似できない内装たちだ。さらにフミコ自身が、夢にまで見た天蓋付きベッドに横たわり、腹を出して寝ていたのである。
 すると、ピンポンパンポンという音が、部屋の壁に取り付けられたスピーカーから聞こえた。
「グッモーニング。気付いたかね。延岡フミコ39歳」
 フミコはベッドに起き上がるとあぐらをかき、背を曲げて、後ろに回した手で背中をボリボリ掻きながら言い放った。
「あなたたちは何者なの!」
「我々は、主婦目線で日本を征服しようと企む秘密結社『バラ色らいふ団9:50』。腕力ではぜったい勝てるはずのお父さんの三倍の権力を持ち、財布のヒモを握っている主婦を意のままに操ることで、日本という国を胃袋からつかんでいき、……えー……つかんでいく、団だ」
「なんて卑劣な団なの!」
「案ずることはない。君たちの輝かしい毎日は、我が『バラ色らいふ団9:50』が保障する。君たち主婦は誰一人欠けることなく、日ごろのストレスから解放され、豊かな、女子大生のような生活を送る権利がある。我々は、君たちが男に奪われていたその権利を代わりに与え、フレッフレッと応援するものだ」
「めっちゃええやん!」
「そうだ。めっちゃええのだ。さあ、カーテンを開ければ、そこには渚のステージが用意されている。みんな陽気に飲んで踊り、懐メロが流れ、聖子ちゃんカットが流行っている。主婦の楽園、更年期の南の島とはまさにこのことよ」
 フミコは汗をかいていた足で純白のシーツをしわくちゃにしながら、ベッドから飛び出した。そして窓に駆け寄ろうとしたが、突然立ち止まり、スピーカーを振り返った。
「そういや私の子供は!? 私のシゲル!!」
「案ずることはない。我が団の託児所『バラ色きっずるーむ9:50』では、保育師の資格を取って2年以上の厳しい研修を積んだ怪人がそろい、いい声で絵本の読み聞かせをしたり、体を使って一緒に遊んだり、すごく教育にいい。君の愛するシゲル君は今、お昼寝の時間だ」
「いいね! あっ あと買い物は!? 私の買い物を返して! 現金で返して!!」
「買い物はそこの冷蔵庫に入れておいた。日用品は、隣の棚にまとめてある。チョコレートは冷蔵庫でよかったか?」
「パーフェクト!」
 家では忙しさに負けて英語で返事したことなど滅多に無いフミコが、今、ましてや親指を立てていた。
「ちなみにもう一つ、この世界では現金の観念など無い。主婦は好きなだけ飲み、食い、遊び、エステし、まさかのタダ。さあ、苦い暮らしを捨て、人間らしい暮らしと青春を取り戻せ。まず君がすべきことは、お気に入りの水着を選ぶことだ!」
 ピンポンパンポンの音と同時に、フミコは滑りのいいカーテンを開け放つ。そして一瞬にして目を奪われる。おそるおそる窓を開けると、部屋に流れこんでくるメロディー。


♪ OH ギャル(ギャル) ギャル ギャル ギャル ギャル ギャル
  女は 誰でも スーパースター


  MONDAY(MONDAY)
  よろいで固めた聖女で過ごせよ
  TUESDAY(TUESDAY)
  男のペースで生きては駄目さ
  WEDNESDAY(WEDNESDAY)


 フミコは音楽に誘われるように、靴下を脱ぎ、全7つの超巨大プールがひしめく地下リゾートへ飛び出していった。踵がガサガサしていても、そんなの関係なかった。


♪ SUNDAY SUNDAY
  女の辞書には不可能はないよ
  ビキニをはずしてマストに飾ろう




参考ジュリー