ネクスト・コナンズ・ヒントが必要なくなった奴から大人になってゆく

 よく言うことだけど、大人になって時が経つのは早くなった。それでも、一週間が過ぎるのはやっぱり遅い。先週のネクスト・コナンズ・ヒントをどこかにメモったはずだ。もういやになってしまった。
 真新しいランドセルを背負ったピッカピカの小学一年生達が歩道を流れていくのを窓から見ている僕は、漢字三文字の苗字がよかったなと全然関係ないことを考えている。その時、後ろで人の気配。慌ただしいカズダンスの気配。そう、こんな午後にはいつもやって来てくれるんだ。僕がおセンチになったそんな時には、いつも赤いスポーツカーで駆けつけてくれるんだ。
「こんな疲れた社会だけど、ご飯をおかわりして頑張っていこう」
 僕は窓の外に手を放り出したまま答える。
「僕はもううんざりしてしまいました。エースストライカーさん、あなたには悩みは無いんですか」
 エースストライカーさんは笑った。エースストライカーさんはいつも陽気に笑い飛ばす男前。前髪は長め。爽やかな笑い声を春の陽気に思うさま響かせると、どこかでウグイスが鳴いた。
「ハチャメチャが押し寄せてきたら、その時は卒業アルバムをそっと紐解いてみるんだ」
「エースストライカーさん、教えてください」
「デカビタ飲んで頑張っていこう」
「いつも冷静にゴールを陥れるエースストライカーさんだって、悩むこともあるんでしょう!?」
「渇いたハートがうるおう日まで、上半身クロールの真似で歩いてみるんだ」
「エースストライカーさん、聞いてください」
「デカビタ飲んで張り切っていこう」
「エースストライカー!!」
 エースストライカーさんはカズダンスをやめた。人の机の引き出しを勝手に開ける音がした。
「僕の話を聞いてください。引き出し開けないでください。美味しんぼのメンバーが、何ヶ月か戦国時代にタイムスリップしていませんでしたか?」
「してた」
 それからエースストライカーは、五年前の橋本二十万円事件について話し始めた。
 30分後、僕の口が「結局、金か」という悲しい形にコマ送りされ、世界がガッチャンと音をたてて動き出した。もうネクスト・コナンズ・ヒントは必要ない。