名犬

 スーパーモデルが腰でひっかかる隙間でかっちりはまった鉄格子の向こう側に、ハヤトが伯母さんに引き取られて以来の相棒であるジャックがいた。鼻が自慢のシェパード犬だ。
「ジャック、お前無事だったのか!」
 駆け寄ろうとするハヤトに向かって、待ってましたとばかりに放たれたレーザービームは十六色。ハヤトの動きを止めるには十分すぎるほどカラフルで、見応えがあった。
 レーザービームの棒が見えっぱなしの中、向こう正面(犬の反対側)のモニターに、全員で肩を組んだいじめっ子チームのメンバーが映し出される。
「ハーヤトー」「ヘイヘーイ」
 いじめっ子チームは挨拶代わりにそう言うと、クラスで一番筆箱のでかい藤本が紙を見ながら説明を始める。
「ただ今より、牢屋の隅っこにあるホースから、ある気体と、商店街の焼肉店の匂いが同時に放出される。ハヤト、お前のかわいいシェパード犬がどうなるかよーく見ておくんだな」
「犬を利用するなんて、卑怯だぞ!」
「お口にチャックして、命を大事にしな!」
 プシュー。多少色のついた煙がホースからでているのが、一色増えたレーザービーム越しに確認できた。
「ジャックー! ダメだー、そのガスを吸っちゃダメなんだー!」
 ジャックは普段ろくなものを食べさせてもらっていないので、ホース前でクルクルまわりながらピョンピョンはねて、鼻をフガフガさせた。でも元気そうだ。
「これは一体……?」
「もっとヘリウム濃度を上げろ!」「アイ・アイ・サー!」
「ジャックー! 吠えちゃダメだー、絶対にダメなんだー!」
 その瞬間、四方八方に動き回るオモチャが2体、同時投入された。