悪魔の手作りレディオ

 アンテナ代わりのメガネ(金属フレーム)を広げた瞬間、手作りのラジオが電波をキャッチした。音量を少し上げ、スピーカーに耳を押し当てると、二人の男が何やら喋っている。どうやらリスナーからの投稿コーナーのようだ。音が割れてはっきりとは聞き取れないが、派手な爆発音が聞こえる。そのあとでリスナーから送られてきたネタを発表するというやり方らしい。ズバリ言って、ネタの内容もスタッフの笑い声もラジオネームも、何も聞き取れない。
 これでは、あの残虐で鼻の穴の大きい悪魔どもを満足させることは難しいだろう。悪魔は、普段は優しいけれど癇癪持ちで欲張りだと図鑑に載っていた。もっとニッポン放送を綺麗に受信するラジオを作らなければ、僕は間違いなく、あの鋭く手入れされた爪で引っかいて引っかいて殺されてしまうだろう。今夜は不眠不休でひたすらラジオを組み立てなければならない。少しでも休んでみろ、その瞬間、寝ていないことを自慢するタイプの悪魔たちは、僕がサボっていると決め付けて怒鳴り込んでくるに違いない。
 というのも、壁にかかった丸い時計の中がガラス窓になっていて、そこから悪魔が監視しているのだ。僕が気付いていないとでも思っているらしいが、とんでもない。僕がちょうど時計の下で作業をしているので、悪魔はガラスに顔を押し付けなければならなかったが、何度かガラス窓が開いてしまい、そのたびに黒い手がサッと出てきては、窓を閉じて引っ込んでいった。時計の針がずれて今何時なのかもわからなくなっていたし、息でガラスがくもるらしく、時々キュッキュッという音もする。極めつけは、悪魔の声がこっちに丸聞こえだ。悪魔なりにあまり喋らないようにしているらしいが、僕は既に「窓開いちゃった」「もうできてるじゃん」という結構甲高い声を聞いていた。もうできてるじゃんの後、まだ未完成なのに色んな色をした悪魔が交代交代でのぞきこんできて、三人に一人はガラス窓を開けてしまった。
 今はふたたび落ち着いて、見張りはもとの奴だけになったらしい。他の奴はもう寝てしまったのだろう。ラジオは一応の受信には成功したので、ここから感度をどこまで高めていけるのかがポイントとなる。メガネだけでは辛すぎる。僕は電波を受信しそうな金属を部屋中探したが、悪魔が棲家にしているこの古い洋館は木のぬくもりをテーマにしているらしく、一切の金属が無かった。そして悪魔に協力をあおぐのも無理だった。この部屋にぶちこまれる前「材料がないとラジオは作れない」と言ったら「口だけは達者だなおい! 手ぇ動かせよ、手!」と癇癪を起こされ、爪の背中で頬をぐいぐいやられて悔しかった。あいつらは血も涙もない悪魔だ。
 どんなにメガネのフレームを芸術的な角度にしても、まるで1233に合わせているかのようにやかましい。あれこれ工夫してみたが、なんかもうこれ以上やることないし、どうすればいいんだ。僕はいらつき、音量ツマミを乱暴にひねった。砂嵐の音が部屋に響き渡る。その瞬間、頭上でガラス窓が開く音がした。僕は気づかない振りをして音量をさらに上げ、メガネのフレームをベストなポジションに持っていって誰かが喋っていることがわかるようにした。さりげなく上を見ると、悪魔が胸まで飛び出ていた。あっ、というリアクションの悪魔に向かって僕は声をかけた。
「もっとこっち来なよ」
「いいの? あとそれ文化放送?」
 僕はその悪魔と仲良くなり、かけているメガネをアンテナに使わせてもらおうと考えていた。