芸術の秋アリンコの巣

「またダンス専門大学校の奴らだな。足を踏み鳴らしてジルバのリズムに身を任せている。あいつら悪い奴だ。俺はヘッドフォンをしよう」
 近所の若いニートはそう思ってぷりぷり怒ったが、この人はもうこれっきり出てこない。
 さて、外では、車の滅多に通らないコンクリートの広い道の隅っこで、牛若丸ダンス専門大学校の生徒達の中でも特別、サークルをすぐに設立しようとしたがる男達がダンスの練習をしていた。
「やっぱりさあ。リズムに乗ってアリンコを踏み潰すトレーニングは足腰とそいから反射神経の鍛錬にすごい効果があると僕は思うんだよな」黄色の星のいっぱい散りばまった帽子をかぶった男が、足を交差させたり開いたり、忙しい動きでアリを踏み潰しながら、ハッハラハッハと息を切らせて言った。
「このトレーニングを考え出したのは、しかし本当にえらかった」それに答えて鼻水をたらした小さな小僧が、ガードレールにちょこんと腰掛けてしみじみうなずいた。
「これならさあ、日本全国アリの巣があるところであれば、ダンスのトレーニングができるっていうものだなあ。それで実際、アリの巣なんて日本全国どこにでもあるのだから、日本全国どこでもダンスのトレーニングができるということだ」星の帽子が足を止めて得意げに言う。
「そうだそうだ」しゃがみこんでいた大男も口を開いて、今度は自分がトレーニングに励もうかと立ち上がり、そんな大きいサイズの服ってどこで買うのというところを見せた。
 その時、道路と、誰かの庭との境のとこの、ヒビだらけのコンクリートの隙間の方から小さな音が聞こえてきて、三人は、誰からでもなく耳を澄ませた。最初は聞き取れなかったが、だんだん調子が出てきたのか、やがて歌と、ポロンロンというウクレレの音が聞こえてきた。


……………フンダフンダフンダフンダ……(聞こえなかったところはずっとこう言っていたらしい)


はぁ〜ダッフンダ!


媚びない男はボー、イッシュ!
端から端まで決闘だ
靴下いっぱい持ってるぅ〜
今夜も踊り明かすのさトゥトゥトゥ朝まで喋るのさ


モリモリモリモリ筋肉ぅー
フィンガーテクの成れの果てぇー
体やわらか酢の物ぉー
「さっき見た時はありましたよ」


ズダダダダ!(Oh ダンス)シャバダダダ!
替えのパンツ持って来い
ズダダダダ!(Be トゥギャザ)シャバダダダ!
替えのパンツ早く持って来い
バイト代つぎこんで走り出す


甘党目線のコーディ、ネイッ!
新式歯みがき神がかり
そういうことだきゃ知ってるぅ〜
今夜も喋り明かすのさナナナ朝までぐっすりさ


知らない楽器弾いてますぅー
下の上の中の中の下ぇー
恋に恋した愚連たーい
「誰か持って行ったんじゃないですか」


ズダダダダ!(Oh ダンス)シャバダダダ!
お薦めのCD教えろ
ズダダダダ!(cos シータ)シャバダダダ!
お薦めのCD早く教えろ
試着をしないでズボン買う


霧が晴れたら外人だらけ
日本に生まれてよかった
「僕は知りませんよ」


ズダダダダ!(Oh ダンス)シャバダダダ!
考えてきたか
ズダダダダ!(Hey ブラザ)シャバダダダ!
ちゃんと考えてきたか
だからお前はダメなんだ
だからお前はダメなんだ


「仲間が洒落にならないぐらい沢山ぺしゃんこになったけど、おかげでクールな一曲ができたぜ」
 しゃがみこんで顔を近づけてコンクリートの隙間をのぞくと、そこにはウクレレが挟まってあった。よく見ると、その弦の上に体と足をいっぱいいっぱいに伸ばしたアリがいて、体をピンピン動かして、ありがとうの調べを奏でていた。