しょせんカンパニーなんて人間の集まり

 エリートサラリーマンの働木(はたらぎ)は、どうりで動きが俊敏だと思ったら、スピード社製の水着を着ていた。それが発覚したのは、トイレであった。ズボンとパンツを一体化させて膝まで下ろすことでは一定の評価を得ている働木であったが、最初で最後の失敗で、レーザーレーサーを目撃されてしまう。
 目撃した男、ダメダメサラリーマンの駄目谷(だめや)は、自分もスピード社製の水着を買ったが、スピード社製の普通の2000円ぐらいの水着を買ったために、ただただムレてしまう。健康診断で恥をかいてしまう。そして、脱ぐ時クルックルになってしまう。そのおかげでもともと悪い仕事の効率が更に悪くなった駄目井は、大事な契約書の隅っこにエロい落書きとドラえもんを描いて、会社を馘首された。
 社長の社緒井(しゃちょい)は、その出来事に怒り心頭であった。駄目谷が描いた絵は、足を広げている女の横で、ドラえもんがドラ焼きを見る時の顔で女を見ており、しかも下手だった。社緒井はドラえもんが大好きであった。家ではドラえもんのバスタオルを、あまり水を吸わないのにドラえもんだからという理由で使っていた。そのくせ風呂上りに裸のままベッドに飛び込むので妻にとやかく言われたものだが、その妻は二年前に他界していた。
 駄目谷の所属していた課のある部の部長の部長田(ぶちょうだ)は、なまじ社長とつながりがあるあまり、直々に叱られてしまう。っせーよハゲ、っせーよハゲ、と怒られている間、部長田は心に繰り返した。社緒井はハゲ、部長田はハゲていなかった。部長田の兄はハゲており、通勤用の自転車をこの前会社でパクられたらしいが、そんなこと知ったことではなかった。部長田は社長室を出ると、エレベーターのボタンを連打した。
 駄目谷の所属する課の課長である課長出(かちょうで)は、部長田に呼び出された。そして、駄目谷の件でしこたま怒鳴られてしまう。このハゲ、と部下の前で、OLの前で罵られた。頭を下げるたびにハゲを見せることになり、このハゲ、と大きな声を出された。課長出は四十手前だったが、完全にハゲていた。息子が将来を案じてナーバスになるほどハゲていた。スピード出世スピードハゲ、と悪態をつかれた時、課長出の怒りはピークに達した。課長出は、頭を上げると、部長田をぶん殴った。
 その瞬間、各部屋と廊下に取り付けられているスピーカーから、暴れん坊将軍が戦う時の音楽が流れ始めた。



 課長出は走り出した。そして、広い会社をまわり、音楽にのって、ハゲていない男性社員を次々とぶん殴っていった。その前に、スピード社製の水着一枚の働木が立ちはだかったが、こいつはそれで強くなったとでも思っているのだろうか。下っ端め。