僕と泥橋くんのコンビは最悪

 キックオフの笛が鳴った瞬間、僕とツートップを組む泥橋くんは、ボールそっちのけで僕のユニフォームの下を膝まで一気に下ろした。僕は試合開始前にもかかわらず、センターサークル内でパンツ丸出しになって立ち尽くした。キャーという女の子の声がグラウンドに響いた。
 ピピー。
 審判の笛が鳴った。すぐさま、僕と泥橋くんにイエローカードが出された。
「喧嘩両成敗きた」
 審判の人は独り言のように言ったけど、僕はケンカなんかしてない。ユニフォームの下を脱がされただけだ。クラスの女の子が応援に来ている時は決まって、泥橋くんはいきなり僕のユニフォームの下を脱がすんだ。女の子が応援に来ていない時は砂を投げつけてくるんだ。僕は黙ってユニフォームを上げた。僕と泥橋君のコンビは最悪だ。
 ピー。
 またホイッスルが鳴って、今度は泥橋くんがボールをチョンして試合が始まった。
 開始早々、いきなりチャンスが訪れた。キャプテンの腕丸くんの華麗なパスが泥橋くんに渡り、そしてゴール前で僕がフリーだった。これが混んでいる電車の中だったら逆に心配になるほど僕のまわりに人がいなかったのだ。
「泥橋、こっちだ!」
 僕はボールを要求して叫んだ。泥橋くんに、相手のチェックが迫る。早く。でも、泥橋くんは下を向いている。そして泥橋くんは敵に寄せられてしまった。
「泥橋!」
「気安く呼んでんじゃねえ!」
 泥橋くんは相手と競り合ってボールをキープしながら叫んだ。
「え?」
 泥橋くんはボールを奪われてしまった。相手はカウンターを仕掛けて、あっという間にボールが遠くに運ばれていった。それを見送ると、泥橋くんがつかつかと僕の目の前までやってきた。
「お前が途中で声をかけてくるから気が散ってうまくいかなかったんだ」
「気が散るってそんなの、サッカーだから声はかけるよ」
「知らない子達の前で呼び捨てにしやがって」
「サッカーだから、ピッチで君付けなんてしてられないよ。ここは教室じゃないんだ。いつもの六年三組にいるんじゃないんだぞ。だいたい、別に敵チームの人も気にしてないよ。呼び捨てにしたからって、試合してるんだし、別に気にしないよ」
 僕も興奮してきた。強気な奴がフォワードに向いているという都市伝説どおり、僕だって穏やかな方じゃないのだ。でも、次の瞬間、僕はユニフォームの下を膝まで下ろされて、敵のペナルティエリア内でパンツ丸出しになった。僕は立ち尽くした。少し間があってから、キャーという女の子の悲鳴が聞こえた。
 ピピピピッ。
 遠くで笛が鳴って、審判が凄い勢いで駆けてきた。
「君、今回は注意ですますけど、次にその汚いブリーフをさらけ出したら本当にもうレッドカードだよ」
「ほんとだよ」
 泥橋くんは審判の横に立って、僕のパンツを見下ろしていた。僕と泥橋くんのコンビは最悪だ。僕は二人をにらみつけながら、黙ってユニフォームをはき直した。
「なんだよ」
「やんのか」
 中立な立場の審判にまで喧嘩腰の口をきかれて、僕は下を向いた。
 なす術もなく2点を取られてハーフタイムになり、僕達はベンチに戻った。監督は厳しい顔で、飲み物を飲む僕達を見下ろした。
「どうした、やられっぱなしじゃないか。点を取る気配がまったく感じられないぞ。泥橋、液山、お前らツートップのコンビは最悪だ。だから点が取れないんだ。わかったか。わかったら二人で点を取って来い。お前らは、俺が今まで見てきた中でも最悪のコンビだ。仲悪いもんな。とにかく、後半、逆転するぞ。円陣だ」
 僕達は立ち上がり、輪になった。
「三六(さぶろく)小、ファイ!」腕丸くんが叫んだ。
「オー!」
 僕はなんとなくみんなの掛け声に合わせて声を出したけど、その瞬間、パンツが丸出しになる風を感じた。女の子達は真後ろにいたのに、もう悲鳴をあげなかった。飽きているのだ。僕と泥橋くんのコンビは最悪だ。コンビを組んで三年、一点もとったことない。