ニャンパルゲ

「ドブ山くそネズミ郎ども、集まっているな。大集合かな。朝ごはんはちゃんと食べたか。お前らはカゴに入っている時と外にいる時のイメージが全然違うね。外にいるとなんかやだね。なんか汚いね。さて、もうすぐニャンパルゲ閣下が御到着なさる。徒歩で御到着なさる。そのため見た目は周りの猫と全然区別がつかないが、なんとなくふてぶてしそうでそんで真ん中へんにいるのが閣下だから、それを見たら、あっやべえと思って一目散に逃げるように。他の猫が近づいた時は、ドラゴンボールで強い奴が弱い奴の攻撃を全部受けながらビクともしない時みたいな余裕な顔をして、閣下が近づいてきたらピンクパンサーの動き出しで、一度後ろに下がりながらジャンプしてそれから逃げるように。わかるね。ドラゴンボールからピンクパンサー、わかるね。そして、大体のところで捕まるように。上手に任務を遂行すれば、穴の開いたチーズがどっさりもらえるからそのつもりで頑張れ。死ぬ気で捕まれ。チューチュー叫べ。でも、穴の開いてないチーズの方が得だと思うよ」
 空き地に集められた三百匹のネズミたちはチーズが欲しくて欲しくてたまらないので、思わずチューチュー言ってしまいながら、後ろ足だけで立って話を聞いていた。土管の上で喋っていた猫が別の猫に合図すると、そいつは幼児が積み木を運ぶ車の後ろに立ち上がって、前足で押してきた。人間ならその愛らしさに「わぁー」「見て見て」となるところだが、今見ているのはみんな動物なので、車を押している猫は少し恥をかいた。しかし、そんなことよりもネズミたちの興味はチーズの方にあり、伸ばしていた体をさらに無茶な領域まで伸ばした。そして、チーズを目にするやいなや、長いシッポを股から前にまわして、外人がシーブリーズをバシャバシャちょっと無駄だろと思うほど豪快に手で胸に打ち付ける感じで、腹から胸にかけて叩きつけた。準備万端やる気まんまん、大好き炭酸お腹ぺこぺこである。
 その時、向こうの柵の間から、猫の一群がやってきた。その中に一際大きなトラ猫がいて、その後ろからブチの、ちょっとふてぶてしい感じのするニャンパルゲ閣下が歩きで到着した。先ほど喋っていた猫が閣下のそばに行き、それから閣下の後ろにまわると、立ち上がって手で閣下を指し示し、ネズミたちに向かって「こいつだニャン」と口パクで伝えた。ネズミたちは鼻をヒクヒクさせてネズミ式のOKサインを出したが、猫には伝わらなかった。ふざけていると思われた。
 そして、ネズミたちは各自リラックスし始めた。指示を受けた猫が三匹ほどネズミが密集してごろ寝しているあたりを突っ切るようにうろついたが、ネズミたちはまったく意に介さず避けもしないので、猫は一歩進むごとに、映画の途中でトイレに立つ時のように「すいません、すいません」を小声で連発した。
 その様子を、ニャンパルゲ閣下は見ていた。
「そろそろお昼ごはんにするかな」
 閣下はボソリとつぶやき、ゆっくりと歩き出した。ネズミたちは、全員、ちょっと別の方を見ながらいつでもピンクパンサーになれる準備を整え、ドキドキしていた。すると、閣下は山盛りのチーズが乗った車に手をかけ、チーズを食べ始めた。この時のネズミたちの慌てぶりと言ったら凄かった。グリーンマイルでネズミが踏み潰されるあそこは見ていてとてもビックリするが、あの時の、ネズミじゃなくて見ている人の慌て具合が今回のネズミのドキドキといってもよく、何が言いたいかというと、筆者はグリーンマイルを映画館で二回見た。最初に母親と見に行って、次に友達と見た。これはなぜかというと、別に凄く感動したからというのではなく、友達と約束する時、自分はグリーンマイルを既に見ていることを完全に黙っていたのである。初見の感じで行った。どうして気の置けない友達相手にそんなことをしたのか今となっては見当もつかないが、だから二回目はぺしゃんこネズミでびっくりしなかった、とそういうわけである。
 さて、ご褒美のチーズをニャンパルゲ閣下に食べ始められてしまったネズミたちは、チューチューも忘れて「ふざけるな」「チーズを食べてしまうなんて話が違うぞ」「十中八九、契約違反だ」と労働組合の口調で一斉に体を起こして立ち上がった。十中八九の時にチューを挟み込むのも忘れるほど憤慨していた。そして、あんまり集まってみんなでゴチャゴチャ言ったからかどうかそれは全然知らないが、ネズミ、合体した。そしたら、一匹の大きなネズミになった。これを見て慌てた猫たちも「ネズミ風情が猫にたてつくのか」「窮鼠猫を噛む気か」「チュー誠心の無い奴らだ」とこっちはちょっと余裕でユーモアも飛び出したが、それでも巨大なネズミにビビって一つに集まりながらごちゃごちゃ言ってそのたせいだと思うが、合体した。すると猫たちは、こちらもなぜか一匹の大きなネズミになった。猫じゃないのかよ。そして、二匹の巨大なネズミは互いにチューチューいいながらチーズの奪い合いを始めたが、僕はこの二匹のでかいネズミがもみあっているうちに合体するとしたら全然関係ない動物にするんだろうなと思ったけどここで止めといた。