ランジョウくん

 ランジョウくんがコバルくんとコネラちゃんの家に遊びに行くと、二人は部屋の隅に立って、テーブルの上を見つめていました。
「そんなはじっこで、二人ともなにをしているの」
 ランジョウくんがききました。
「ランジョウくん、そんなところにいちゃあいけないよ。危険だよ。ホネホネになってしまうよ。テーブルの上を見て」
 テーブルの上には、銀色の知恵の輪が一組ありましたが、ランジョウくんはいまいち物を知らないので、それがなんだかさっぱりわかりませんでした。ランジョウくんは首をかしげました。
「もっとよく見て!!」
 コバルくんが突然大きな声をあげたので、小さいコネラちゃんが、
「ギャーー!」
 と叫んでしまいました。
 コバルくんはコネラちゃんをジッと見つめました。
「コネラ、お前、どうしてそんなに驚くんだい。それでランジョウくんがびっくりして、つまづいて、あれにぶっつかったら、ランジョウくんはホネホネになって死んでしまうかもしれないよ。そしたら、お前が、刑事につかまえられちゃうんだよ。つかまったら、いじめられるんだよ」
 コネラちゃんはしばらく、それについて考えていたようでしたが、だんだん涙ぐんできました。想像したら、怖くなってしまったのでした。
「泣いちゃあいけないよ。さいわい、ランジョウくんは無事だったから、心配ないよ。ほら、あそこで平気な顔をしている」
「刑事さんが、いじめてムチをうった」
 コネラちゃんはちょっと喘ぎながら言いました。
「うんうん」
「それがとても痛いの」
「うんうん」
「今のムチが終わったら、次はトゲトゲのムチを使うと言われたの。本当は、特別な時しか使っちゃいけないのだけど、こっそり使うって言うの」
「うんうん」
「お母さんもお兄ちゃんも、ガラスの向こうでジッと見ているの。お兄ちゃんは見てるのに飽きちゃって、チンチンをいじっているの」
「お前がぶたれてるのに、ぼくはチンチンをいじったりしないよ」
「ううん、いじってるの。お父さんは仕事に行っていないの。そうしたら、泣きたくなってしまったの」
「ランジョウくんは?」
「ホネホネになって死んじゃったの、最初の方で」
 それで、コバルくんとコネラちゃんはランジョウくんを見ました。ランジョウくんもぼんやり見つめ返しましたが、やがて、話が終わっていることに気付いて、
「あっ!」
 と言いました。
「コバルくん、これはなにかなあ」
 ランジョウくんは知恵の輪を指さして言いました。
「わからないよ。でも、銀色だから、電気で、ビリビリなんだよ。銀色のに触ると、だから、ホネホネになってしまうんだ。ホネホネだよ。ぼくは、お調子者ネコさんの絵本で読んだんだ。だから、絶対に触らないほうがいいよ。触ったら知らないよ。近づいて見るだけでも危ないよ。見ている途中で気分が悪くなって、グラッとして、触ってしまったら大変なことだよ。そうでなくても、忘れて、ついうっかり触ってしまうかも知れないよ。だから、近寄ったら危ないよ」
 ランジョウくんはとても怖くなったので、壁伝いに二人のところへ行こうとしました。が、壁伝いに行こうとすると、ふすまが開いているので、行けないのでした。ランジョウくんは頭を抱えてうずくまりました。いつもこうして考えているのです。
「うん」
 ランジョウくんは頭を上げて、よしこれだ、とうなずきました。
 それからランジョウくんは、腹ばいになって進みました。こうすれば、テーブルの上の知恵の輪に自分の姿を見られることはできないのでした。コバルくんとコネラちゃんは、ハラハラドキドキしながらその姿を見ていました。
 ランジョウくんは、這っているうちに、テーブルの下をくぐってやろうと思いつきました。そっちにズリズリ這って行きました。そして、とうとうスッポリとテーブルの下におさまってしまいました。
 その時です。コバルくんがあることに気付いて、
「あっ!」
 と叫びました。
「ランジョウくん、思い出したよ。ビリビリは色んなところを伝わるんだよ! ぼく、お父さんに聞いたんだった。きっと、テーブルだってくぐってしまうよ! ああ、ああ! ランジョウくん!」
 コバルくんのお父さんが言うなら間違いない、とランジョウくんはなんだか絶望的な気分になりました。死んでしまうと思いました。
「ギャーー!」
 とコネラちゃんも怖くなって叫びました。それから、口のあたりを手でおおいました。
「コバルくん、ぼく、ぼく、どうしたらいいんだろう」
 ランジョウくんは、動くと知恵の輪に気付かれると思ったので、そうすればすぐにテーブルをくぐってくると思ったので、動きを止めてコショコショ話で言いました。
「平気なの? 今、平気なの。ランジョウくん、どうしてそんなとこにもぐりこんだの。ランジョウくん」
 コバルくんは床にはりついたランジョウくんを指さして、大きな声で言いました。
「わからないけど、うん、わからないよ」
「じゃあとにかく急いで!」
 ランジョウくんは、こんなところにもぐりこんだことを反省しながら、言われた通りに急いで這って行きました。
「ランジョウくん! ランジョウくん!」
 コバルくんは一生懸命声をかけました。コネラちゃんも、コバルくんの腕にしっかりしがみついてランジョウくんを応援するようにグッと見つめていました。
 そしてついに、ランジョウくんは二人の足元までたどり着きました。知恵の輪の方を気にしながら、ゆっくり立ち上がりました。三人は、そろって肩で息をしていました。
「ああ、よかったなあ」
 ランジョウくんは、無事なのがわかると、ホッとして言いました。
「ぼく、もうダメかと思った」
「ランジョウくん。ランジョウくんがあきらめなかったから、よかったんだよ」
 コバルくんがランジョウくんの肩に手を置きました。
 その時、部屋に貼ってあった秘密刑事マッコサランのポスターの右上の両面テープがはがれて、ポスターの右上がこっち側にベロンとなりました。
 いち早くそれに気付いたコネラちゃんは、それを指さして、とても恐ろしい顔で叫びました。
「ギャーーー!!」