シンデレラ

※この創作は、To菜果さんのサイト、プレイグバインの中の『To菜果A』という大喜利企画の「第5節 みんなの絵本シリーズ『シンデレラ』」に寄せられたいくつかのボケから成り立っています。こういうことは前からやりたいな、と思っていたんですが、沢山のボケを詰め込める設定になるお題がなかったので手を出せませんでした。今回、これだったら色々入れられるかな、と思ってやってみました。
「わしのボケを何勝手に使っとるんじゃい! ボ作権違反や! あと誰やねんお前!」と言う方がいましたら、もしくはTo菜果さんが「勝手にそんなことすんなや! あと誰やねんお前!」と思われるようでしたら、そんなことなかったかのようにスッと消しますので、ご連絡くだっさい。多分大丈夫だろうとは思いますけど。というか、僕がこれをしているということを知ることがあるのかないのか(連絡しろよ!)。
 あと、入れられなかったボケの人はごめんなさい。あんまりトリッキーなボケだと入れるとめちゃくちゃになるので泣く泣く諦めました。僕の力不足です。最後に誰のボケか書いておきますので。
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 継母とその連れ子である義姉たちが現れては、鼻をつまもうとしてくる。そんな夢をまたみたシンデレラが目を覚ますと、手の甲に歯形がついていた。いつもいつも、寝てる間に手の甲に歯形がついているのだ。シンデレラはその痕をじっと見つめたが、やがてベッドから立ち上がり、カーテンを開けて朝の光を浴びた。今日も一日頑張らなくては。家のことは食事の支度をのぞいて、掃除洗濯あらゆる雑用まで、ほとんどシンデレラ一人でこなさなければならないのだ。
 部屋を出て、階下に降りていくと、継母と義姉たちが声をかけてきた。
「おはよう。シンデ、レラ」
「よく眠れた? シンデ、レラ」
「シンデ、レラ、早く座りなさい。朝食は出来てるわ」
 ウインナーやオムレットにコーンスープ、レーズンパン、おいしそうな朝食が、よく磨かれたフォークやスプーンと一緒に食卓に並んでいた。しかし、隅の席、シンデレラが手の取ったフォークは温かく曇っていた。そのために食が進まず、早く食べろと小言を言われながら最後に食べ終わった。それから洗い物をした。
 洗い物が終わってトイレに行くと、またツルが折られていた。いつもこうだ。トイレットペーパーの先にぶら下がっている。継母や義姉が折ったツルを流して捨てるわけにもいかず、切り取って、棚の上に積み上がった今までのツルの上に、そっと置いた。今にも崩れそうだ。崩したらまた怒られるだろう、とシンデレラは思った。
「シンデ、レラ! シンデ、レラ!」継母が呼んでいるのが聞こえた。
 シンデレラは慌ててトイレを出て、声のするほうに向かった。
「なんですか、お母様」
「あなた、どこに行っていたの。またトイレに行っていたの。隙あらばトイレなのね、あなたは。食べるのがダラダラと遅いから、いつまでもお通じが止まらないのよ。とにかく、今日は親戚のみなさんがいらっしゃるのだから、わかっているわね。もう三十分もしたらいらっしゃると思うから、そんな小汚い格好ではいけないわ。恥ずかしくてしょうがないわ。臭くてしょうがないわ。さっさと着替えてらっしゃい。下着もきちんと、清潔なものを身につけるのよ、前に買い与えてあげたものがあるでしょう」
「わかりました、お母様。廊下の雑巾がけが終わったら、すぐに着替えます」
 シンデレラが雑巾がけをしていると、一つの部屋から声が聞こえてきた。
「お母さんさ、さっきあいつと喋ってる時さ、トイレって言ったでしょ。しかも二回。言ってたでしょ」
「トイレはセーフでしょ、トイレはセーフよ」
「もともとトイレットだから英語よ、トイレは英語。罰金、二千円」
「油断も隙もないわ……この、月末の二千円は…きっつい」
「ふふ、自業自得よ」
「あいつがトイレばっか行ってるからカーッとなって――」
 シンデレラはそこまで聞いてその場を離れて、雑巾がけに集中した。すっかり終わらせると、部屋へと戻って着替え始めた。親戚といっても継母の親戚であり、自分と面識のある人などいないが、精一杯、心を込めたもてなしをしなくてはならない。何より、綺麗な服装で人前に出られるのがシンデレラは嬉しかった。引き出しの中で、滅多につけることのない白い下着が輝いている。シンデレラは誇らしい気持ちでブラジャーをつけようとした。
 サクッ。
 シンデレラが反射的に胸を見ると、ブラジャーの中にキャベツ太郎があった。目にした途端に少しくずれながら床に落ち、細かいカスが散らばった。しばらくは呆然とキャベツ太郎を見下ろしていたが、軽く胸とブラジャーを払い、何事も無かったように着替えを済ませて部屋を出た。
 下に降りると、すでに親戚が続々とやってきていた。シンデレラが玄関に現れた紳士のコートを受け取ろうと近づいていくと、
「いいのいいのシンデレラちゃん、私たちがやる」と義姉たちが近づいてきて、コートを受け取り、紳士と談笑しながら中へ入っていった。
 それから、シンデレラは身を粉にして右から左へ立ち回った。しかし、要所要所で、
「いいのいいのシンデレラちゃん、私がやるから」と義姉が口を挟んだ。
 ワインの空き瓶を持っていく義姉の後姿を見ていた親戚たちは、
「お母さんはいいお子さんをお持ちで幸せだ」と褒めた。
「こんなの当たり前のことですわ、アルベールさん」と継母は恥ずかしそうに手を振った。
 誰も彼もが楽しく談笑しているのを、シンデレラは部屋の隅に立って見ていた。ふと気付くと、継母がいなかった。どこにいったのだろう、とシンデレラが思ったその時、階段を下りてくる高い足音が聞こえた。全員、その方向を見た。
「シンデレラ」継母がドアのとこへ現れ、低く抑えた、しかし怒気を含んだ声で言った。
「あなたの部屋に、これが落ちてたわよ」
 継母は、くずれかけたキャベツ太郎をつまんでいた。それを親戚中に見せるように、高く掲げた。
「これは何なの、キャベツ太郎でしょう。どうしてキャベツ太郎を床に落としっぱなしにしているの。どうしてきちんと掃除をしないの。一人でこそこそキャベツ太郎なんか食べて、それをどうしてほったらかしにしておくの」
「お母様、それは」とシンデレラ。
「口ごたえをしないで。私はね、そういう教育はしないのよ。お母さんはね、厳しくする時は厳しくするの。あなたであろうとお姉ちゃんであろうと、それは関係ないのよ。悪いことは悪い、絶対に甘やかさないわよ」
「ごめんなさい」シンデレラは頭を下げた。
「ほら、あなた、いつまで持たせておくの。あなたはいつまでお母さんにキャベツ太郎を持たせておく気なの」
 見知らぬ親戚が一部始終を見つめる中、シンデレラは屈辱的な気持ちでくずれかけのキャベツ太郎を受け取った。シンデレラがそれを捨てに行こうとする間に、みんなはもう会話を再開して、継母の振る舞いを賞賛した。
 親戚たちが帰り、シンデレラが後片付けに追われたあと、ようやく夕食となった。
「やっぱり和食が一番よね」とみんな言ったが、シンデレラだけタイ米だったので、うまく箸ですくえなかったし、焼き魚にもアサリの味噌汁にも合わなかった。アサリの殻入れは、自分の位置から余りにも遠いので使わなかった。ポロポロこぼして食べるのに時間がかかり、また小言を言われた。
 シンデレラは、洗い物を終えると部屋へ戻った。疲れ果てていた。リラックスするためスウェットに着替えようとしたが、今日も紐がきつく固結びされていた。ほどくのに手こずりながらもなんとか着替えると、小さく粗末なベッドにうつ伏せに倒れこんだ。
 そのままウトウトしかけた時、ドアがノックされた。シンデレラはすぐに起きあがって駆け寄り、ドアを開いた。
 上の義姉が顔を出した。
「ねえ、シンデ、レラ。今日は疲れたでしょ。これ、おもしろいわよ。あなたにもおすそ分けするわ。伯父様のおみやげの箱の中に入っていたの」と言って義姉が差し出したのは、プチプチだった。
 シンデレラは受け取って、義姉を見上げた。
「姉さん、ありがとう。私、これ好きだわ。いつまでもやってしまうのよね」
「そうそう。だってあなた、今日は大変だったでしょう。辛かったでしょうけど、母さんの気持ちも考えなくちゃね、親戚の前でみっともないところを見せたくないのはわかるでしょ。人んちの床にキャベツ太郎が落ちてたら、あなたどう思うの。どう思うのよ。わかるでしょ。だから、あなたは耐えなくてはならなかったのよ。悪いのはあなたなんだから。わかったわね。わかったら、それで息抜きでもして、また明日から頑張りなさい」
 姉は微笑みかけて去って行った。シンデレラはベッドに座り、渡されたプチプチをいじり始めたが、しばらくして、潰れていないところが一ヶ所もないことがわかった。


――――――
 登場ボケ順に。
 お題は、「毎日のように継母とその連れ子にいじめられてたシンデレラ。そのいじめの中であまりにも地味すぎて逆に耐え切れなかった陰湿ないじめとは?」でした。


ごまぱんさんの作品
<夢に現れてはシンデレラの鼻をつまもうとする>


たかさんの作品
<寝てる間に手の甲に歯形>
(このボケ見た時に、これ書こうと思いました。たかさんだったのがちょっと嬉しかったです)


Uさんの作品
<「シンデ、レラ」で区切られる>
(これ、もちろん「死んで」とかかってるんでしょうけど、かかってなくてもおもしろいですね。変な区切り方するだけでも全然アリですね。かかってると考えると怖くなったので、かかってないつもりで書きました)


怠惰さんの作品
<毎朝、飯の時フォークが温かくて曇っている>
(消毒したとかの熱さじゃなくて、ずっと人が持ってたぐらいの温かさ)


MURASON侯爵さんの作品
<トイレットペーパーの三角折り、シンデレラが使う前だけ鶴を折る>
(これだけ文章を再構成せざるを得ませんでした。ごめんなさい)


キリマンジャロ空挺団さんの作品
<シンデレラと会話するときは英語禁止>
(この疎外感)


師匠さんの作品
<ブラをつけると「サクッ」というので、見てみたらキャベツ太郎
(ははは。映像にしたらもっとおもしろそう。何がおもしろいって、別にパッケージ見なくても一欠けらのスナックだけで「キャベツ太郎」ってわかるところが凄く。おもしろかったので引っ張っちゃいました、勝手にごめんなさい)


平成ミシェルさんの作品
<親戚が集まる席で「いいのいいのシンデレラちゃん、私たちがやる」>
(これはもっとおもしろく出来そうでした、ごめんなさい。でも、親戚が集まる設定で凄く助けられました。勝手に、ありがとうございます、と思いました)


のりしろさんの作品
<シンデレラだけタイ米
(うん、まあ。なんか意図をもってボケてる感じがちょっといやですね。そんで、自分のだからって、足したよね。アサリとか、足したよね)


れおん(甘党)さんの作品
<スウェットをはこうとするといつも紐が固結びになっている>
(カッチカチ)


Hiさんの作品
<潰したぷちぷち渡される>
(カタカナにしました。僕個人的に好きなちょっと怖い終わり方になったので、嬉しかったです。時間差で気付くいやがらせはおもしろいですね)


 っていうみなさんのボケを、なるべくそのまま入れてます。文章もほとんど変えないように気をつけました。
 他にも入れたいのはあったんですが、一番最初に書いたような理由で書けなかったものと、僕の書き方みたいなものが邪魔してうまいこと出来なかったものは外しました。本当にごめんなさい。とにかく、僕がうまいこと破綻せずに書けそうなものを勝手に選んで勝手に書きましたので、選ばれてないのがおもしろくなかったとかそういうことじゃないので、悪しからず。まあ、破綻して何が悪いという話なんですが、破綻するとあるある系のボケの立つ瀬がなくなってしまうし、何より僕がそういうふうにしか書けないので。
 こういうお題とボケがあって、またやってもいいならやりたいですね。To菜果さん、ボケた人、みなさんありがとうございました。これからも頑張ってください。