駄弁!研究チーム会議 〜「動く歩道でムーンウォークをする実験」〜

 動く歩道でムーンウォークをやったらどうなるのか、研究チームはこの課題に取り組むことにした。頭の中だけでイメージしてみればイメージできないこともなさそうだったが、豊島が「じゃあ実際にやってみたらいいんじゃないですか」と言ったので、実際にやってみることにした。
 やるからには、動く歩道がなくてはならない。動く歩道をどうすればいいのか。五人集まっての会議が始まった。ナビスコチップスターが一つと、缶コーヒーが一本ずつ、これは会議を早めに切り上げたい、暗くなる前に終わりたいという一つのメッセージだ。
「動く歩道と言えば空港じゃないですか」
「羽田も成田も遠いなー」
「成田は問題外ですね」
「スカイライナー使うって言っても、なあ?」
「これから海外行くってのに、なんか特別な電車使う気になりませんよね」
「海外行かないしな」
「日暮里から二千円ぐらいかかるらしいですよ」
「高っ」
「羽田とかでも、なんでモノレール乗らなきゃいけないんですかね」
「ちょっと空港までの駅とかはテンションあがるけどな」
「ああ、流通センターとか」
「そうそうそう」
「整備場とか」
「死ぬまでここで降りることないんだろうなー、って思いますよね」
「みんな思うよ、それ」
「で、思った奴の半分ぐらいは口に出す」
「他に死ぬまで降りない駅なんて腐るほどあるくせに」
「ま、どっちにしろ遠いな」
「羽田って、別ルートでも京急でしょ。最悪ですよ」
「京急のみでいけるルートなんて、あるんですかね。よっぽど近い奴は別にして」
「ないよ、絶対ない。知らないけど」
「じゃあ、百パーセント乗り換えしろってことだ」
「荷物持っての乗換えがきついってのがわかんないんですかね」
「改札とおるのも一苦労だってのに」
「全部JRでいかせろよな」
「最悪ですよ」
「で、何の話だっけ」
「動く歩道ですよ」
「JRで行けるとこで、動く歩道見たことあるやつ」
「あっ、オレ、新宿で見ましたよ。タカシマヤ行くとこ」
「あーあるあるある」
「サンシャインにもあったよ、水族館行くとこ」
「あるある」
「結構あるじゃないですか」
「羽田よりはマシだけど、どっちも電車乗らなきゃダメだしなー」
「タクシーで行きます?」
「でも、機材とか持っていくので、舌打ちされんのとかいやですよ」
「うわーそれはやだ」
「やな奴多いもんなー、あんまり乗らないから知らないけど」
「何を思おうが勝手だけど、それを態度に出すからな」
「最悪ですよ」
「タクシーもダメと」
「誰も免許持ってないしなー」
「ていうか、逆になんでみんな、他の人ね、免許取るんですかね」
「将来見据えて、みたいな取り方しますよね」
「大学生の時にな」
「早い奴だと高校最後の春休みに行く奴」
「そうそう」
「なんだろうな、あれ」
「結局、将来もあるけど、車でどっか遊び行きたいみたいなのがあるんじゃないの」
「女か」
「大体そうですよ。女を含めた友達と車でどっか行きたい」
「あさましいなー」
「なんていうか、短絡的」
「最悪ですよ」
「まあ、行ったら行ったで楽しいかも知れないですけどね」
「で、なんだっけ。新宿と……?」
「池袋」
「両方、現地は混んでるんだろうなー、知らないけど」
「そういうとこって、カップルもいっぱいいるだろ、多分」
「そこで動く歩道でムーンウォークとかやってるのもね」
「これはサブいですよ」
「うん、おもしろがられたとしても、サブいですよ」
「逆の逆にね」
「いや、全然、自分達的にはいいんですけどね」
「そうそうそう」
「そういうためにやってるんじゃないっていうか」
「そうそうそうそう」
「向こうの受け取り方が」
「最悪ですよ」
「それをおもしろがれるオレみたいな、見方でしょ」
「真面目にバカをやってる、みたいなスタンスで見られるの、一番きついですね」
「それが違うんだよな」
「バカをやるって言ってる時点で終わりなんですよね」
「そこは絶対に黙ってないと」
「ほんとわかってない奴多いですよね」
「そういう奴は彼女のいる奴が多い」
「意外とね、そうですね」
「なんていうか、女以外には本気じゃないんですよね」
「女といるのそんな楽しいか? ってのはあるな」
「そうそうそう」
「めんどくさくないか? って」
「よく知らないけどな、女といる状態」
「で、なんでしたっけ」
「動く歩道、動く歩道」
「あの、僕、コーヒー無くなったし、用事あるんで帰りますね」
「ああ、おつかれ。じゃあ決まったら電話するから」
「いや、メールでいいです」
「うん、わかった」
「メールも、寝る前にお願いしますよ、僕、一回起きると寝られないんで」
「うん、わかった」
「それじゃ、失礼します」
「じゃあ」
「おつかれー」
「おつかれさーん」
「で、どうしようか」
「やっぱり研究室に作ればいいんじゃないですか」
「もうそれしかないですよ」
「他の可能性は全部つぶれたし」
「そうだな、どれぐらいお金かかるんだろ」
「そんなこと知りませんよ」
「研究者がいるから作るんですし、そこから先は」
「そうそう、経理? 経理の分野だよ」
「じゃあ、そういうことで」
「ムーン・ウォークする人はどうするんですか」
「なんか、踊りのグループ入ってるような奴を雇えばいいんじゃないの」
「でも、そういうダンス系の奴ってチャラチャラしてるんじゃないですか」
「あー、そういうイメージある」
「ありますね」
「こっちも、ずっと研究してるわけじゃないし」
「ちょっと談笑することもあるだろうし」
「きついな」
「仲間連れてきたり」
「うわー」
「でっかいデッキで音楽かけたりする」
「最悪ですよ」
「誰かムーンウォーク出来ないのかよ」
「無理ですよ」
「オレ、一時期練習してましたよ」
「あ、いいじゃん」
「仲間内でやるのが一番だから」
「部外者入るとちょっとね」
「そうそう」
「でも、オレも完璧にできるわけじゃないし」
「大体でいいよ、大体で」
「後は頭で補完しますし」
「じゃあいっか」
「よし、そういうことで」
「じゃあ、豊島には佐藤がメールを入れておくということで」
「え、それもオレですか」
「さっき言ってただろ」
「あれは、四人の総意として伝えたまでですよ」
「なんだよそれ」
「でも、あんな注意事項言われたらやる気なくすよな」
「寝る前に、とかでしょ」
「最悪ですよ」
「夕方ぐらいにすればいいんじゃないの」
「じゃあ、頼むよ」
「やっぱオレなんですか」
「こっちはアドレス知らないし」
「教えますよ」
「アドレス知らない奴からいきなり来たらあれって思うよ。お前に対しても、あれって思うと思うよ」
「なるほど、なんで佐藤からじゃないんだろうって」
「じゃあ、やっぱ佐藤だよ」
「忘れそうだなー」
「夕方ぐらいに、メールしてくださいってメール入れましょうか」
「それならお前が最初から送れよ、お前は知ってるだろ」
「いや、そういう立場になったら忘れると思うんですよ。そしたら佐藤さんに、夕方頃に、メールしろ、ってメールを入れて欲しいと思うんですよ」
「ああ、そしたら、佐藤がやれってことになるな、そうだな」
「じゃあもういいよ、オレがやればいいんでしょ。それでムーンウォークもオレじゃ、なんか負担多すぎっていうか」
「たまにはいいじゃん」
「そうそう」
「まあいいけど」
「じゃあ、おつかれということで」
「あ、チップスター持って帰っていいですか」
「いいよいいよ」
「あんま食べなかったな」
「あ、オレも持って帰りたいかも」
「じゃあ、ここは佐藤だな」
「そうですね、譲ります」
「夜食でもないけど、軽いもの欲しかったから」
「うん」
「じゃあ、もうなんもない? 電気消すよ」
「おい佐藤、それ、豊島の空き缶持ってけよ」
「なんでそれもオレなんすか、別にいいけど」
「ははは」
「はい、おつかれー」
「おつかれさんでーす」