女友達、一緒に弁当を食う!

 弁当に煮物が入っていたので、ハルコは二秒でそれを平らげた。弾ける若さがスローフードに直面すると、お肌の張りツヤもシラケるというもの、ましてそれをクラスメイトのティーンに見られたら噂はまるで風のマジカル、夢中な恋の旅路もおじゃんというわけだ。
 しかし、蓋を開ける動きに乗じて、その蓋で隠しながらナチュラルな動きで煮物を胃におさめたはいいものの、恋のライバル、でもそこそこの友達のメルミが突っかけてきた。メルミが生まれた時、両親は十九歳だった。
「ハルコ、そこ。あんたそこ、何か入ってたの?」
「うん、唐揚げ」
「いきなり唐揚げ食べちゃったわけ?」
「そう」
 すでに証拠を隠滅したハルコには、少々無茶な嘘もなんのその、無理のある言動は全てメルヘンチックの公約数なのだ。眠れない夜はウサギのぬいぐるみを抱いて寝床に就くが、朝起きると足元の方にあるし、寝ているうちに体のどこかひっかいたのかちょっと血がついていたりする。
「でもハルコ、弁当に竜田揚げあるじゃん」
「竜田揚げあるよ」
「唐揚げもあるんでしょ」
「唐揚げもあったよ」
「それっておかしくない」
「なんでやねんな」
 急に関西弁になったハルコは何を隠そう甲子園球場の近くで生まれた。気持ちが高ぶればハルコの胸の中にマイメロディはいなくなり、じゃりん子チエが顔を出して凄いジャンプ力を見せるのだ。
「なんでやねんって、そんなこと言うと男の子に嫌われるよ」
「ここでしか言いませんー」
「鈴木君は、あの人、メッセンジャーの黒田が苦手って言ってたよ」
「そんなの関係ないもん。メッセンジャーの黒田と関西弁は別に関係ないもん、大体、関西弁なんて私、滅多に使わないし」
「でも今言ったじゃん」
「ふざけて言ったから」
「じゃあそれはいいけど、竜田揚げと唐揚げが一緒にあるのなんて色んなバランスとしてちょっとおかしいと思うし、なんていうか女の子のお弁当じゃないって感じ」
「そんなことないよ。別にいいじゃん。オカズになるじゃん。もういいじゃん」
「だって、そこに唐揚げあったんでしょ」
「もういいじゃん。あったけどさ、あったけどさ」
「で、そこに竜田揚げあるでしょ」
「うんある、ある。あるね。あります」
「しかもその横にハンバーグまであるじゃん。」
「え、何?」
「ハンバーグまであるじゃん。なんかガーリックフレークみたいのかかってんじゃん。くっさ、何それ?」
「うん?」
「だからその――」
「ん?」
「え?」
 メルミは怒ったようにハルコを睨んだ。負けてたまるか糞女、とハルコも睨み返す。二人はしばらくガンを飛ばしあっていた。
「だから、唐揚げがあったんでしょ」
「おう、あったあった、あったな」
「竜田揚げあるでしょ」
「あるある、あるわ。二つあるわ」
「それで、ここ、ハンバーグもあるじゃん。ハルコの弁当、お肉ばっかりじゃん。女の子なのに、こんな、茶色い茶色いお肉ばっかりの弁当じゃん」
「うん、そう、うん、まぁ、確かにそうかもな、ああ」
「女の子なのに、家でもこういうものばっかり食べてんの?」
「……」
「ねえ、家でもこういうものばっかり食べてんの?」
「……」
「食べてるんでしょ、ねえ」
「あたりきしゃりきケツの穴ブリキやがな!」
 ハルコが大声で叫んだので、クラス中のみんながハルコの方を向いた。
「それでええわ、ああ食うとる、食うとるわ! でもな、そんなわしのことが好きやがな! 鈴木君はなぁ、そんなわしのことがなぁ、お前なんかよりもそんなわしのことがなぁ! ……っ大好きやっちゅうねん!!」