小川君

 ボカーン(500ポイント)。
 シューティングゲームというかゲーム全般が得意な小川君は、そのテクニックでまず手始めに工藤先生を撃ち落した。
 仲良し三人組のうちの二人、木寺君と本西君は、小川君のブレザーの胸ポケットの中から顔と腕だけ出して、
「ヒューヒュー!」
「さあ次の標的はどいつだ!」
 と盛り上がった。
「プシュー」
 と言いながら小川君が教室を出ると、いきなり校長先生に会った。小川君は立ち止まった。
「いきなりボスっぽい存在の出てきたけど、かまうこたねえよ!」
「やっちゃうんだろ! やっちゃうんだろ小川!」
 と木寺君と本西君が腕を振り上げる。
 ボカーン(700ポイント)。
「さすが小川! 容赦しないぜ!」
 と喜ぶ木寺君と本西君。
「鼻んとこのでかいイボを確実にとらえやがって!」
「あそこなら三発命中で倒せることを読んでたのかよ!」
「ワンワン!」
 小川君が家で飼っているゴールデンレトリーバーの伝次郎もズボンのポケットから顔だけ出して上機嫌だ。
「プシュー、ウィーン、シュゴゴゴゴゴ」
 と声を大きくして、小川君は階段を降りて行った。すると、踊り場のところで誰かにぶつかった。倒れる小川君。
「ア、アクシデント発生!」
 と木寺君と本西君もポケットの中でもんどりうって叫ぶ。伝次郎は外に飛び出してしまい、元の大きさに戻って階段を駆け上がって行ってしまった。あまり小川君に馴れていないのだ。だいたい、四年前に伝次郎と名付けてみたら、おもしろ科学実験の人が出てきて、ペットとしてあまり感情移入できなくなった。でもそれはただの言い訳だ。
 木寺君と本西君がポケットから顔を出すと、小川君がそわそわしているのがわかった。その前にいたのは、なんと、同じクラスの松岡さんだった。
「やばい、小川が常々キッスしてみたいと思ってる松岡さんだ」
 と本西君が小声で言った。
 木寺君と本西君は一瞬迷ったが、小川君のボディーをバシバシ叩いた。
「小川、好きな子だからってもじもじ遠慮してたら全クリなんて夢のまた夢だぞ!」
「全力と書いてフルパワーでいけ!」
 小川君はブルブル震えだした。
「私情は捨てろ、小川!」
「仕事人間と書いてサラリーマンの気持ちでいけ!」
 その時、背後で、
「ウイーン」
 という音が聞こえた。小川君が振り返ると、そこに居たのはサッカー部のエース、岡田君だった。
「イ、イケ面野郎なんかやっちまえよ小川ぁ」
 と木寺君が相手に聞こえないように声をかける。
「そ、そうだよ。別にやっちまえばいいよ。それに、お前の恋敵だろ、やっちゃえよぉ。そしたら、小川、松岡さんはお前のものだよ、きっとそうだよ。女って強い男が好きらしいよ。やっちゃえばいいんだよ。大丈夫だよ多分」
 と本西君も言う。
 小川君は、いよいよガタガタ震えだした。すごい振動で、木寺君と本西君は満足に立っていられない。小川君は、また松岡さんの方を振り向いた。
 それと同時に、松岡さんの目からビームが十七本、連射で飛んできた。それは全て小川君のメガネのツルを支えるネジに命中し、そこを爆破した。小川君の顔からメガネがずるりと落ちた。
 ボカーン。
 視力が悪い小川君はメガネを壊されてゲームオーバーになってしまった。
「やったわ、小川を撃破よ!」
「キモキモメガネがこういう時だけ調子に乗るからよ、ブタ!」
 と松岡さんの胸ポケットの中で橋本さんと戸島さんが喚起の声をあげた。
「岡田君とヒロミちゃんの、愛のコンビプレイだわ!」