元気でいくぞ!

「ヘイヘイパスパス!」
 右サイドの味方に元気な声でパスを要求する僕、木村ケンタ。藤本スーパーファミコンフットボールクラブ(FSFFC)のゲームメーカーで、元気いっぱいの小学五年生だ。自分で言うのもなんだけど、本当に元気いっぱいなんだ。元気いっぱいだよな〜僕って。この間だって、余りに元気ではしゃぐもんだから、いや、どうでもいいや、それはとにかく僕のテクニックは中学時代のラモスぐらいある! って兄ちゃんの友達の須藤くんが!
「ヘイヘイっつってんじゃん! ヘイヘイっつってんじゃん、ねえ!」
 今やっている試合は、市の大会の準決勝。つまり、この試合に勝利できれば、決勝戦に出られるってわけなんだ。ちょちょいと決勝進出っていきたいところだけど、今、試合は同点、しかもうちのフォワード、タカシがラフプレイで退場しちゃって一人少ないって危機的状況だ。ここは僕の元気で、マイ元気で、タカシの分も元気に頑張るしか無いけど、僕はタカシの元気の分をカバーする自信がある。だって、僕の元気は、元気にはしゃぎすぎて、この前の朝礼の時間に、あ、ボールが飛んできた!
「木村!」とパスを出した野村先輩が声をかけてくる。
「はい元気です!」
 僕は反射的に答えた。名字で呼ばれると、元気な僕はそう答えずにはいられないんだ。返事と同時に、中学時代のラモスぐらい華麗なトラップで前を向くと、僕はプレスをかけてきたディフェンダーを元気にかわした。このぐらい朝飯前だ。いや、今日は朝ごはんパン食べてきたけど、そんなことはどうでもいいじゃないか。とにかく元気なんだ。元気のスタミナ丼だ、僕は。なんたって僕の元気は、この前の朝礼の時間、元気にはしゃいでたら、先生が、あっ! ディフェンスが向かってきたぞ!
「吉田!」
 僕は後輩の四年生フォワードに視線を送りながら、その名前を元気な声で叫んだ。吉田は右に流れながら前方へ走っている。ディフェンスがパスコースをカバーする。引っかかったな! シュートコースががら空きだよ。僕の有り余る元気が、それを見逃すと思うか。答えはノーだ! なんたって、僕の元気は、この間の朝礼の時間、あまりに僕が元気にはしゃいでるもんだから、先生が、先生が、先生が、
「注意するほどなんだーーー! いっけーーーー!」
 僕のシュートは、ゴールキーパーが正面でキャッチした。
 僕は元気に戻りながら思った。あのキーパー、なんて元気だ! 一緒に鬼ごっことか缶蹴りとかしたい!