インコこら

 友達が集まって今日は楽しいパーティー。そのパーティーでアイドル的存在となったのが、喋るインコのクーガー君だ。誰もがインコのお喋りを聞こうと、入れ代わり立ち代わりに鳥かごを覗き込んで声をかけた。
 そんな中、そのインコに喧嘩を売られたのがハルミチである。世界的に見ても、喋るインコに喧嘩を売られた人間はその日のハルミチが初めてだったに違いないが、みんなは、まさかハルミチがその喧嘩を買うとは思わなかった。
 ハルミチはその時、鳥かごを食い入るように見ていたのだった。
「ナニミテンダオマエコラ」とインコが鳥かごの中で喋った。
「あ? 別に見てねえよ」とハルミチが言った。
「ミテンダロウガ。ヤンノカコラ」
「あん?」
「トボケテンジャネエゾ? コンジョウナシ」
「なんだてめえコラ。やるか?」
ジョウトウダコラ。タイマンハルドキョウアンノカ? ヤッテヤンヨ」
「なめてんじゃねえぞこのインコこら」
「コイヨ、コイヨ、コイ」
「あーやってやるよ、やったぁるよ!」
「オモテデロ、オイコラ」
「お前が出ろや! お前そっから出ろコラ!」
「オ? オ?」
「なんだてめえコラ。そのくせえ鳥かごから出ろっつってんだよ。ボッコボコにしてやっからよォ!」
「ジャアダシテミロヤ。ダシテミロヤオマエコラ」
「ああ!?」
「ダシテミロヤ。ソレトモビビッテダセネエカ?」
「なんだとてめえ!」
 ハルミチは鳥かごの扉を開けようと指で格子をつかむ。すると、インコがその指に向かってバシバシついばむ。
「いてえな!」
「ハヤクダシテクレヨ」
 ハルミチはなおも開けようと頑張る。しかし、喋るインコはハルミチの指の関節の皮があまったところを狙って執拗についばみ続ける。
「いてえな!」
「マダマダスピードハアガルゼ」
 確かに、どんどんついばみのスピードは増していった。
「止めろてめえコラ!」とハルミチが叫ぶ。
「ハヤクシナイト、アノCMミテエニナッチマウゼ」
 あのCMとは、手のパックリひび割れに効く薬のCMのことなのだ。あそこに出てくるおばさんの手はパックリ痛々しい。ハルミチの脳裏にCMのパックリ傷の記憶が甦る。あんなふうになったら、あんなふうになっちまったら、凄く暮らしづらいだろうが。
「ふざけんなよ!」
 ハルミチはとうとう扉を開けるのをあきらめ、手を離した。指は傷だらけだった。
「お、覚えてろよてめえ!」
 ハルミチはそのままパーティー会場を後にした。みんなは、喋るインコの喧嘩をまさか買うとは、喋るインコにまさか負けるとは、というハルミチのダブルまさかの前になす術もなかった。