一つの生き方

「シッ」とハンターは口の前に指を当てて僕をにらんだ。
 ある事情によって東京にいられなくなった僕は、四国の山をあてもなくさまよって下痢気味になったところでハンターに出会った。わけを話すと、ハンターは「しばらく俺と一緒にいればいい」と言ってくれた。その日から、僕はハンターの弟子になった。その夜、焚き火をしながら「ハンターさんは、こんな山の中で、どうやって暮らしているんですか?」と僕は尋ねた。「密猟だ」「売るんですか?」「食べるんだよ」僕は何も言うことが出来なかった。何かに対してどうこう言う資格など失っていたのだ。
 ハンターは大木によりかかり、猟銃を立てたまま、隣の僕を見ていた。
「耳を澄ませろ、あいつが空気を震わせる音が聞こえる」
 僕は全神経を耳に集中させた。鳥のような鳴き声が聞こえた。
「今のですか?」と僕は小声で言った。
「違う」とハンターは言った。「今も、鳴いてんだろ。よく聞け」
 僕には何も聞こえなかった。今までは黙っていたけど、ハンターの口呼吸がハァハァうるさいだけだった。
 ふいに、ハンターが動き出した。猟銃を前に向けて、背をかがめて飛び出していった。僕は慌てて後を追いかけた。どんどん離されたが、見えなくなりそうなところで、ハンターが横を向いてしゃがみ、銃を構えるのが見えた。
「早く来いよおい!」とハンターは叫んだ。
 僕がそこまで行って、銃口の向けられた先を見ると、そこには銀色の、2ドアの冷蔵庫があった。
「ちょっと小さいな」とハンターは苦々しい顔で言った。
 そこまでくると、空気が震えているのが僕にもわかった。ハンターはじりじりと近づいていった。
「これを、どうするんですか?」と僕はきいた。
「食べるんだよ」
 どこをですか、と僕が言おうとした時、ハンターはすでにドアを開けて、中に首を突っ込んでいた。
「ハムとかあっぞ!」
 チーズとかもあった。おいしかった。僕は、なんとかやっていけそうな気がした。