埼玉県にいる母達が日本を救う!

 三十年後の日本はいったいどうなっちゃうのだろうか、ってみんな心配なんだろ。だから、テレビ埼玉が立ち上がってやったぜ。いつもなら昔のアニメの再放送をやってる時間もぶち抜いた年末特番は、さいたまの母、吉川の母、秩父の母、この三人の鼎談を、芸能界からの特別ゲストである高橋克典がわきで眺めて感想とか言うそんな感じのやつ。じゃあ、収録はじまりまーす! スタッフの皆さんおんしゃーす!


(さいたまの母、黒いドレスを着て登場。秩父の母は豪華絢爛な着物で、吉川の母はTシャツにジーパンという普段着で登場)
さいたまの母「いきなりですが、私は未来から光臨している形なので、三十年後のことは実体験としてわかっているので、私一人いればもう足りるのですけどね。でも、そうすると、番組の意味がなくなってしまいますから」
秩父の母「まあでもそんなお前がぐだぐだ言っててもしょうがないから、始めませんか」
さいたまの母「おい」
秩父の母「最初のテーマは、何かしら」
さいたまの母「おい」
吉川の母「このテーマカードを引くのかしら。引くのね。私が引いてもよろしいかしら」
秩父の母「いや、ちょっと待って。ここは、さいたまさんに引いてもらったらどうかしら。というか、未来のことがおわかりになるさいたまさんなら、引くまでも無いことでしょう。見ないで言ってもらいましょうよ。ねえ、さいたまさん、最初のテーマは何かしら」
さいたまの母「そんなくだらない、あなたの猜疑心のために能力を使いたくありませんから」
秩父の母「能力ってお前、未来から来てるなら普通にそれ言ったらいいんじゃないの。見てきたこと言えばいいんじゃないの」
さいたまの母「インチキのあなたにはわからないでしょうけど、天界の掟というのがありまして、現在にとっての、未来の開示の限度というのが設定されているのね。そこに触れてしまうと、私は……いや、インチキのあなたにこんなこと言ったところでね」
秩父の母「お? お?」(と立ち上がる)
さいたまの母「ん? ん?」(負けじと立ち上がって詰め寄る)
高橋克典「まあまあ」(とやって来て、二人を筋肉の力で引き離す)
吉川の母「じゃあ、そういうことならカードを私が引きますね。最初のテーマは――」(とカードを引いて自分の方に向けて見る)
秩父の母「ちょっと待った。言うな言うな。おい」(と、さいたまの母をあごでしゃくる)
さいたまの母「なんでしょう」
秩父の母「お前、今言ってみろよ。もう、未来の開示云々じゃなくなったんだから言えるだろ」
さいたまの母「そんな指図されたら、言う気なくした。お前の汚い顔見たら」
秩父の母「なんだそれ、うーわ、こいつ」
さいたまの母「いいから早く発表しろよお前はお前でよ」(と、吉川の母をにらみつける)「お前がぐずぐずしてるから、こいつがしゃしゃり出てごちゃごちゃ言ってくるんだろうが。パッパッパッパやんねえと話進まないのよ、約一名バカがいるんだから」
吉川の母「ごめんなさい」
秩父の母「あんたが謝ること無い。このさいたまが嘘ばっか言ってるから悪い」
さいたまの母「呼び捨てにすんじゃねえよ、おい、秩父、おい」
秩父の母「黙れインチキ。止めろ。悔しかったらカードに書いてあること言え」
さいたまの母「今言ったら、お前のために言うことになるから言いたくないんだろうが。頭悪造が」
秩父の母「じゃあ吉川だけに言え、クソが。言えるもんならな」
さいたまの母「おい、いい加減にしとけよ、田舎もんが」
秩父の母「あ?」
さいたまの母「秩父からせっせと電車乗りついできたんだろうが。私鉄が」
秩父の母「は? だから?」
さいたまの母「田舎もんは黙ってろっつってんだよ。どうせ観光してくんだろ、終電なくなるぞウンコが」
秩父の母「こいつ意味わからん。頭おかしい。死ね」
さいたまの母「テレビで死ねって言ったこいつ。バカだ。お前が死ね」
秩父の母「お前も言ってんじゃねえか」
さいたまの母「はいはい。気が済みましたかよかったですね」
秩父の母「みなさんインチキが一人います! このスタジオにインチキのクソが一人います!」
さいたまの母「言っとけ言っとけ、お前みたいな雑魚もう相手にしてない。誰も相手にしてない」
(プロデューサーから指示を受けた高橋克典が席を立って近づいてくる。カードを吉川の母から受け取る)
高橋克典「最初のテーマは、そもそも三十年後に日本はあるのか? です。では、みなさん、よろしくお願いします」(と発表して席に戻っていく)
秩父の母「私に一つだけわかることがあります。一つだけ、わかることがあります! 三十年後には、こいつは確実に、絶対に、この世に存在していません。死んでます。病気で苦しんで泡をふいて死んでます」(と、さいたまの母を指さす)
さいたまの母「はいはい。まあ言わせとくけど、死んでるのはお前の方です。私が見てきた時には、お前はもう死んでました。誰も泣いてませんでした」
秩父の母「は? は? おい、っおぉい!」(と立ち上がり、振袖でさいたまの母の顔を思い切りはたく)
さいたまの母「このように、田舎で暮らしてるバカは、アホなので、悔しくなると暴力を使います」
(高橋克典が走ってきて、秩父の母を無理やり座らせる。しばらく静かになる)
吉川の母「じゃあ――」
(と言いかけたところで、秩父の母が着物を乱暴に脱ぎ始める。驚いたAD達が駆け寄ってくるが、逃げながら簪をADに投げつけ、なおも着物を自らはぎとっていく秩父の母。ついにパンツ一枚になって、乳を放り出しながら、帯を両手に持って、鬼気迫る迫力でさいたまの母に飛びかかる。身構えるさいたまの母。泣き叫ぶ吉川の母。そこに、上半身裸の高橋克典が凄い勢いで飛び込んでくる。と、急に画面が切り替わり「侍ジャイアンツ」が始まる。「侍ジャイアンツ」はとても面白い)